俺の家に窒素が住み着くようになってから数日が立ち、俺の学校は文化祭の準備に入ろうとしていた。
うちの学校では文化祭は春に行う。新しいクラスに早く馴染めるようになることが主な狙いで、受験勉強で忙しくなる三年生のために早めに終わらせておきたいというのもあるらしい。 そんなこんなで俺たちのクラスは今、文化祭で何がやりたいかホームルームの時間で相談しあっているのだ。
すると、鐘城が勢いよく挙手し、うちのクラスの学級委員である聖史にあてられる。 鐘城はひとつ咳をこほんとしてから、
「メイド喫茶がやりたいわ!」
と言い出した。 おお、いいぞ。俺は文化祭なんかに参加したくないからな。女だけで勝手にやればいい。 そんな俺の心を読んだのか、鐘城はあとに
「男子がメイド服着るのよ?」
とほざき、クラスの男子は大ブーイング。鐘城は中学時代はモテたくせに、あんな性格してるから高校ではぱったりとモテなくなった。 まあ、あいつにとってはそれでいいんだろうけど。
ふと突然、後ろから俺は制服の袖をつかまれた。
「なんだ、鋼島」
「錐川、前。大変なことになってる」
と、言われるがまま前の黒板を見遣ると、そこにはでかい字で『メイド役=錐川くん』と書かれてあった。
「ちょっ!!?」
俺はあまりの展開についていけなくて、席を立つ。
その様子を見た主犯・鐘城はふふんと鼻で笑ったあと、
「あたしが推薦してあげたのよ」
と言いやがった。
「ほんとは男子全員にメイドやらせたかったんだけど、ごついのもいるし、人数的に多すぎるかなと思ったから、みんなで選ぶことにしたわけ」
というか、そもそも俺がボーっとしている間に何故こんな展開になっているんだ。メイド喫茶は決定なのか!? 俺の心を読んだのだろう、聖史が
「うん、なんか女の子がほとんどみんなメイド喫茶がいいって言うから…多数決で決まったんだよ?錐川くん、聞いてなかったの?」
うちのクラスの女子はほとんど鐘城族なのかよ!?
そして俺以外にも推薦された男子の名前を見てみると、斎と鋼島に……ああ、斎も鋼島もどんまい。 斎のほうを見遣ると、頭を抱えて魂が抜けたように固まっている。俺に事態を教えてくれた鋼島は特に気にもとめていないようだ。 俺も斎も鋼島も含めて8人の名前があがっていたが、ふと一つの名前に目が止まった。
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