窒素の後を追い、着いた場所は人気のない橋。人っ子一人いないどころか、車さえも通っていない。橋の下には流れの速い川が流れており、落ちたら命はないだろう。
そんなところにカルシウムと見たこともない女が二人ほどいた。…とは言っても一人はフードを深く被っていて顔がわからないから見たことないとは判断できないが。
「おう、待たせたな」
窒素は右手を挙げ、挨拶をする。そして二人の女のうち、フードを深く被っている一人を見遣り「誰なんですか?」ときいていた。
窒素に話し掛けられた女はがくがくと身体を震わせ、「何この小さい生き物〜!!」と叫んでいる。そんな女にもう一人の女が「ああ、あれも元素よ。小さくなったりできるの」とか何とか淡々と説明している。どうやらフードのほうはただの人間のようだ。
窒素は話が通じないと諦めたのか、小さくため息をつき、俺に向き直って、
「前に記憶を操作する能力をもったやつがいると言っただろう?」
ああ、確かにそういうのをきいた覚えがある。
「それがあいつなんです」
窒素はフードを被っていないほうの女を指差す。指を差された女はにやりと微笑し、
「あたしはテルルよ。テルルって元素なんてあなたは知らないでしょうけど、一応存在するのよ?」
そう言ってから手をのばしてきた。どうやら握手しろということらしい。俺は簡単に自己紹介しながら握手する。その瞬間テルルは俺の顔を凝視し、
「……あなた、まあまあな顔してるじゃないの。受けに持ってこいな顔だわ」
なんだ、受けとは。ふ、まあまあな顔をしてるというのはあながち間違ってはいないぜ。そんな俺の考えてることが顔にでていたのか、胸ポケットにいたウランが哀れなものを見るような目で俺を見つめていたことには気付かなかったことにしておこう。
テルルは次に俺の胸ポケットに目を落とし、
「あら、あなた。そんなところにいたの」
と片眉を吊り上げてウランに言う。
ウランはテルルの視線から逃げるかのように胸ポケットの中に潜る。それを見たテルルは、
「言っとくけどね。あなたは受けっ子なんだからずっと一緒にいる相手はイケメンな攻めにしておきなさい。この錐川竜飛っていうのもまあまあな美形だけど、美形の中では下の下だわ。それにこれは受けっ子なの。ちょっとタチ経験のある受けっ子なら他の受けっ子に攻めよっても萌えるけど、あなたみたいな受け性格の桜ん坊が攻めをやるなんて100億年早いわ」
なんか色々語られてるんですけど、受けとか攻めとか何?柔道ですか?それに俺の顔は美形の下の下なのか、ほぼ平凡じゃないか。まあ、こいつの言うことにはつっこまないようにしておこう。
窒素はごほんと咳ばらいをし、
「そろそろ本題に入っていいですか?」
と、眉間にしわをよせて言った。
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