「…………………」
ヘリウムと鋼島は沈黙している。 あれ、いやほんとにあいつどこ行った!?俺があたふたしていると、
「おい」
と聞いたことのある声が俺の背後からした。 声のしたほうを見遣るとそこには俺が…よくは知らないが…知っているやつがいた。
「窒素?」
そう呼びかけると、窒素は口を大きく開いて、
「馬鹿か、お前はっ!!!!」
と、怒鳴った。 そしてたんこぶを頭に三つのせているウランを摘みあげて、
「こいつ、逃げ出そうとしやがってな。しばいてやったんです」
ウランを地面に投げ捨てた。 ……あのー窒素さん?それ、すごく痛いと思います。 てかウラン、起きてたんだな。いつの間に逃げ出したんだ。 ウランはふるふると震えながらゆっくりと起き上がる。目はうるうる状態だ。
「多分これからも逃げ出すことがあると思うが、気をつけるんです。よく見張っとけよ、人間!手に負えそうにないなら虫かごの中にでも閉じ込めておくといいんです」
虫かごのふたにガムテープをびっしり貼っておくとなおいいんです、と窒素は言い、鋼島のほうを見遣った。
「……そいつは?」
と窒素が問い掛けたそのとき、
「うげっ、窒素!」
とヘリウムが窒素のまわりを飛び回っていた。
「ヘリウム!お前、こんなところにいたんですか!?」
窒素は驚きながらも半分呆れ顔で、
「…お前、地球が嫌だからって違う星に行ったんじゃなかったのか」
と言った。 地球が嫌いなのか、ヘリウムは。
「うん…でもみんな地球に残るって言うし…せっかくだから嫌だけどボクもいてやろうかなあって…あ!一人で寂しかったわけじゃないんだからね!!ボクは希ガスなんだもん!!」
ヘリウムは少し顔を赤らめてそう言った。てかなんだ?何で地球が嫌いなんだ。
「ヘリウムって宇宙にはいっぱいいるけど、地球にはあまりいないのさ。その理由はずばりヘリウムはあまりにも軽すぎるからその軽さが地球の重力にたえられないってだけ。それが理由で地球にいたヘリウムのほとんどは宇宙に逃げ出したってわけさ」
ヘリウムは淡々と説明してくれたが、頭の悪い俺には理解しがたい内容だ。まあ、いいか←。
話が一段落したところで鋼島にウランのことを話し、窒素に鋼島を紹介したりしてざっと話をまとめると元素を連れているやつが自分以外にもいたということを知れたという結果だけで特に得られるものはなかった。 まあ、一気に仲良くなれたような気はするが。明日、斎と聖史にも言っておかないとな。
そんなこんなで鋼島とヘリウムは屋上をあとにして、俺と窒素とウランだけが屋上に残った。 どうやら窒素はウラン脱走の件の他にまだ話があるようだ。
「ちょっとついてこい、人間」
窒素は詳しくは何も言わず、屋上から近くの家の屋根へ跳び移った。
俺はその光景を見て、しばらく沈黙する。あのう…それを俺にもやれと?
「どうした?早くついてこいなんです」
いや、無理です。無理無理無理です。 俺が首を何回も横にふっていると、窒素はしょーがないんですと言って、それをきいた俺が首をふるのをやめた瞬間、窒素は二頭身になった。
あ、俺…窒素の二頭身姿初めて見たわ。
チビ窒素は、
「じゃあ、普通に走ってついてこい」
と言って、屋上を階段からおりていく…つっても浮遊しているからその表現はおかしいかもしれないが。
俺はウランを胸ポケットにいれて、急いで窒素の後を追った。一体、どこに連れていく気なんだ。
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