僕は宛てもなく、ただただ走っていた。 果物の王国がどこにあるのかなんてわからないし、てかがりすらないけど、家で大人しくしているよりはましだった。 それにドラゴンフルーツがまだ回収を続けているなら、見つかるかもしれない。
鶫に電話したら、桃くんは連れていかれたって言うし、枚聞さん(ブラッドオレンジの件のときに連絡先を聞いておいた)もブラッドオレンジは連れていかれたと言っていた。鶫も枚聞さんも捜しているようだ。
だからこの町にはもういないかもしれないけど…僕は諦めなかった、というか諦めたくなかった。確かに性悪キウイなんていなくなればいいっていっぱい思ったけど、こんな別れ方なんてあるもんか。
最後に言ったキウイの言葉。普段なら絶対に言わない言葉。 そんな言葉、性悪キウイなんかが言うなよ。キウイらしくもない。 だから、絶対助け出して、もっと真面目に謝ってもらわないと…待ってろキウイ。お前を助け出して、謝らせてやる!
次の角を右へ曲がろうとしたとき、僕は何かにぶつかってしまった。軽く2メートルは吹っ飛んだ。
痛いながらも気力を出して、立ち上がる。 視界に入ったのは一人の少女だ。小学生くらいだろうか…。少女は今にも泣き出しそうである。どうやら僕はあの子とぶつかってしまったみたいだ。
急いで僕はその子の元に駆け寄る。
「ごめんね!大丈夫かな…」
少女は一向に泣き止まない。 何とかして泣き止ますものはないかと、回りを見遣ると、女の子の側の地面に一粒の種が落ちていた。女の子のものだろうか。 どこかで見たことがある種…。これは、キウイと出会う根源となった手紙に入っていた…。
「君!この種、君のだよね?どこで手に入れたの?手紙?」
女の子は一瞬きょとんとしてから、
「そ、それはさっき知らないお兄ちゃんからもらったのです」
知らないお兄ちゃん? それも気になるが、種はドラゴンフルーツに回収されないのか? まだ回収し終わってないなら、この種を狙ってくるはず…。
「シルクハットを被った、変わったお兄ちゃんでしたよ!とても明るくて、『この種は魔法の種なんだよ』って、わたしに種をくれました!」
女の子はさっきまで泣いていたことはなかったかのように、笑顔を振り撒いている。 とりあえず泣き止んだようでよかった。
「あ、このお兄ちゃんです!」
え? 女の子が指差すほうを見遣ると、そこには女の子が言っていたとおりシルクハットを被った少年がいた。
「やあ、そこのお兄さん。ちょっとお困りごとがあるようだねえ。その女の子が持っている種を育てれば、何かわかるかもしれないよ?」
そして僕の耳元に口を寄せて、
「その種には気付かれないように魔法をかけてあるから、回収される心配はないよー。じゃあねー」
と言い残して姿を消した。 もしかして…あいつも果物の…。 あいつが言っていたことが正しいなら、キウイを助けられるかもしれない!
「ねえ!僕、その種の育て方を知ってるんだ。よかったら、その種一緒に育ててもいいかな?」
「眼鏡のお兄ちゃん、この種の育て方を知ってるですか!わたし、お花育てたことあまりなくて、どうすれば綺麗なお花が咲くのかわからなかったです。でも、育て方を知っているお兄ちゃんがいれば安心です!一緒に育てましょう!」
女の子はにこりと微笑む。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕は枝幸芙希。君は?」
「"芥原(くくはら)いその"と言います!」
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