果物本編 | ナノ




さんっ





「何事でしか!!!」


キウイは目を三角にして怒鳴っている。


「拾ったんだ」


僕はキウイが占拠している勉強机にさっき拾った果物の精を置く。置くって表記はおかしいかもしれないが、本当に置いたのだから仕方ない。


「ボクの断りもなしに勝手に連れてくるなでし!今すぐ拾ったところに戻してこい!!」


お前の仲間なのにか?


「こんなやつ見たこともないでし」


そう言いながら小さな指でのびているやつのほっぺをつつく。…いや、グリグリしていた。


「ぷぎゃほお!!」


と変な声をあげ、のびていたやつは目を覚ました。


「痛いじゃないの!あたくし様に何てことするの!」


そいつはほっぺに手を当てて涙目になりながら言う。


「お前がいつまでものびてるのが悪いでし」


「あなた誰よ!?ていうか、ここはどこ!?」


そいつはわーわーわーわー喚き散らしている。うるさいったらありゃしない。


「ボクはキウイフルーツの精でし。あとこっちのまぬけ人間が餌しふき。で、ここはキウイ様の部屋でし」


おい。いつからこの部屋はお前のものになったんだ。それから僕は餌しふきじゃなくて、枝幸芙希だ。


「で、お前は誰でしか?どうせ果物の精なんだろう?」


「あ…あたくし様はブラッドオレンジの精よ!!」


ブラッドオレンジ???


「オレンジの種類よ!果肉が血の色っぽいの」


ふうん…初めてきいたな。でもオレンジは大好物だ。……キウイの視線が恐ろしいことには触れないでおく。


「で、ブラッドオレンジの精さんはどうして空から降ってきたの?」


「む?どういうことでしか?」


ああ、キウイは知らないもんな。僕はブラッドオレンジを拾ったときの状況を簡単にキウイに説明した。


「ふむう…そうなんでしか…で、理由は?」


「単刀直入に言うとね…あたくし様はご主人様に捨てられたのよ」


ご主人様に捨てられた?


「よくあることでしよ。いきなり種子が送られてきて育ててみたら妖精が生まれた。そしてその精が果物の王国に帰るまで育てなければならない。…たとえ育てあげたときに願いが叶えてもらえるとしても、いきなり生まれた得体の知れない生き物を受け入れることができない人間もいるってことでしよ」


捨てられたというより、拒絶されたといったほうがいいのか…。


「拒絶された果物の精は王国に一生帰れなくなるでし。新しいご主人様が見つかれば別の話でしが…」


じゃあ、もし僕があのときキウイを拒絶していたとしたらキウイは別のご主人様を探しにさ迷っていたというわけか…。まあご主人様探しというよりは下僕探しと言ったほうがキウイ的には合っているのだろうが。


ていうか、そもそも拒絶できるなら何でしなかったんだよ、僕。キウイを拒絶して新しいご主人様探しの旅をさせておけば、今頃僕は性悪キウイによる制裁とかを気にせずに楽しい毎日を送れていたはずなのに…。


「バカか、お前は」


しゅぱっとキウイは僕の頭に手刀をお見舞いする。二頭身のやつにされても痛くも痒くもない。


「ご主人様探しというのはすごく大変なことなんでしよ!今度ばかしは種子が送られてきて自分で育てるタイプじゃなくなるでし。人間からしたら果物の精がいきなり自分の前に現れるということはオカルトなものがいきなり自分の前に現れるのと一緒!話をきく前に逃げ出すのがオチでし!それから目の前に得体の知れない生き物が現れたとき、人間はメディアとかに売り出したりすることもあるだろう?それを防ぐためにもそこらへんにいる人間を新しいご主人様候補にはできないんでしよ」


結構大変なんだな、ご主人様探しって…。


「だから大抵、新しいご主人様はすでに別の果物の精を所持している人間にしか務まらないでしね」


あれ、でも…それって一人の人間が何人も果物の精を連れていてもいいっていうのか?


「そういうわけではないでしが、この場合は特別なんでしよ。基本は一人の人間につき一人の果物の精で、一度育ててしまうと一生育てることはないという一生に一度のイベントでし。それに選ばれる人間はごく少数。選ばれるだけでもすごくて、一生に一度も果物の精を育てなかった人間のほうが大多数であるほどでし」


キウイの話をまとめると、果物の精の理解者はごく少数で、基本一人一生に一度しか精を育てることはできないが、ご主人様に拒絶された精がいた際にはなるべく理解者に育ててもらったほうがいいので、一人が複数育てることを許可しているのだそうだ。


まあ、拒絶する人間ならいくらでもいるよな。鶫のところの桃だって、種の状態で捨てられてたんだもんな。あれは鶫が拾わなかったらどうなっていたんだろうか…。


「種子の状態で捨てられた精は生まれることもなく朽ちるだけでし」


こいつらも必死で生きているんだな…。果物の王国の国王が何を考えてるのかは知らないが、人間の手によってこいつらの生死が決まるなんて残酷すぎるよ。


「あたくし様は残酷だとは思ってないわ。果物の精として生まれてきた以上、そのルールにのっとる必要があるから。それは義務なの」


こいつらは二頭身で人間よりもはるかに小さいけど、もしかしたら人一倍力強いのかもしれない。魔法とかそういう意味の強さじゃなくて心の強さね。


「よし、ブラッドオレンジ!!僕がお前のご主人様になってやるよ!話きいてなんか改めて考えさせられてさあ…」


僕は今までキウイを追い出すことしか考えてなかった。でもさっきの話をきいて、あの理不尽なルールにのっとるのが果物の精としての義務であるなら、僕にも選ばれた人間として果たさなきゃいけない義務があると思った。僕の義務はキウイを育てあげ、国に帰すこと。選ばれたからにはそれは絶対なのだ。


「よくわかってるじゃないでしか、しふき!」


てことでさっさとオレンジジュースをついでこいとキウイは偉そうに言う。ていうか、その性格どうにかしろよ。


「あ、でもその前に一仕事するでし」


はあ?まだ何かあるのか。


「しふき、お前はさっきブラッドオレンジの新しいご主人様になるとか言ってたな」


うん、そうだけど。


「そうするためにはブラッドオレンジの今のご主人が本当にブラッドオレンジを拒絶したか確かめないといけないでし。じゃないと果物の精泥棒罪という果物の王国で死刑に値する罪に問われるでしよ」


ふおお、なんかすごい怖いんですけど…。死刑って…。あれ…?じゃあ、鶫の種を拾った行為はどうなるの?


「種は別でしよ。むしろ拾ってもらったほうが好都合だからな」


そうか。それなら安心。


「というわけで確かめに行くでし。オレンジジュースを飲むのは事が落ち着いてからで♪てことでブラッドオレンジ。お前の今のご主人のところに案内しろでし!」







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