次に感じたのは鼓動するような痛みと、そして暖かさ。
地面に叩きつけられた衝撃に口から酸素が吐き出されるが、背後から聞こえた呻きと鈍い音に詩織の意識は一気に現実へと戻る。

「静、司…!」

受け止められたのだ、自分は。受け止められて、庇われて、自分の代わりに的場が叩きつけられたのは運悪く石積みの壁だった。
苔の生えた白い石に、木漏れ日を受けて鈍く光る赤が流れて模様を描く。
やだやだ、どうしよう。
血は頭から出てる、苦しげに顔を歪める彼に意識は無い。詩織を守るように回されていた腕は力無く下ろされて。 恐怖に呑まれそうになりながら的場の方を振り返ろうとすると腹に激痛が走った。
肋骨は何本か折れていそうだ。幸いにも臓器は傷付けていない。
とにかく止血、止血しないと…ッ
痛みを堪えて体を起こした時、ふと辺りが暗くなった。 日を遮ったのは雲でも木々でもない。

「………ぁ……」

上から覗き込むように、複数の目が凝視していた。恐怖と絶望に口から漏れるのは意味の為さないか細い声。
血の気が引いて脳が時間と痛みを忘れる。
それでもその細い腕にしっかりと、今度は詩織が庇うように的場を抱いて。

どれくらい、見つめあっていただろう。

おそらくそれは数秒にも満たないものに違いないが、詩織には1分、10分、1時間にすら感じた。
ゆるりと風が吹いた。
ガラッと背後で石壁の崩れる音がして、同時に多眼の化け物は口を開けて距離を縮める。
乾ききった口と喉で、ようやく意味のある音が出た。
「……助けて、」
せめて、

「静司を、彼だけはどうか、」

懇願したのは目の前の化け物か、神か仏か運命か。

「ならば何を差し出すか」

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