ドンっ!
空気を震わせる大きな破裂音の後にパラパラと火の粉の音がする。
目の前の顔が鮮やかに彩られた。
空へ大輪の花を咲かせたそれは儚く消え、また別の花火が打ち上げられる。

「そ、れは……昔のことで、もう流れた話だろう!」

己の心臓が早鐘を打つのを自覚しながら声を荒げた。少し声が裏返ったが気に止めまい。
的場は呆れたようにため息を吐く。

「犬飼一族、というより貴方のお父様が勝手に伊織さんに横流ししただけでしょう。的場一門(こちら)としては、まだ貴方が許婚です」
「そんな勝手な!」
「勝手なのはそちらかと」

グッと言葉を詰まらせる。
どちらが勝手なのかと問われれば、間違いなく犬飼一族の方なのだ。 的場になんの相談もなく許婚相手を変更してしまったのだから。

「姉さんは…お前を好いてる」
「ええ知ってます」
「お前と姉さんは…いずれ」

結婚する。といいかけた詩織を先回りして的場がきっぱりと止めた。

「それは無いですね」
「無いって!っ!?」

ふわりと的場の指が詩織の頬を撫でた。反射的に目をつむり首をすくめた詩織を笑って、流れる動作で目元に触れる。
(眼鏡にしとけばよかった)
なんて少々ズレた事を考えるが後の祭りである。そもそも眼鏡なら面を被れないだろう。

「今、どれ位見えてますか?」

そう問う的場の声が先ほどまでと違う気がしてそっと目を開ける。
彼は_____悲しげだった。
見た事ない…否、三年前に一度だけ見たその表情にキュッと心臓が締め付けられた。

(やめて…)
「遠くまで、ハッキリ見えてる」
(貴方は悪くないから)
「何の支障もない」
(お願い…)
「大丈夫だから」
(そんな顔しないで)
胸が押し潰されそうだ。

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