case アウトレイジャー 2



 夜の街の一角に、一際目立つビルがある。
 正面入り口の上部には、"斉木ビル"の文字。その中では、盛大なパーティが行われていた。
「世界進出、おめでとうございます。斉木さん」
「いや、まだまだですよ。半世紀前の、日本各地に進出したのと同じです。いつかは、月居住区にも進出したいですね」
 今回のパーティのことを話しながら、斉木は来賓客をねぎらっていく。
 年は20代後半くらい、アパレル関係の会社を見事成功させた、青年実業家だ。その世界ではかなりの実力者として有名である。
 その彼は、次々と各界の著名人と話しながら、あいさつ回りを進めていくが、不意に、その足が止まった。
 斉木の目線の先には、1人の少女がいる。茶髪に金瞳で、薄桃色のイブニングドレスを身につけている。容姿端麗で大人びた顔つきは、不思議な美しさをかもし出していた。
 斉木は、その少女の美しさに一目で目を奪われた。思い切って、出来るだけ紳士的に努めて話しかけてみる。
「初めまして、お嬢さん」
 その声に気付いて、少女が顔を向ける。そして、斉木の姿を認めると、微笑んでみせた。
「初めまして。この度は世界進出おめでとうございます。祖父に代わって、お祝い申し上げます」
 言って、少女は丁寧に頭を下げる。それを聞き、彼は怪訝な表情を見せる。
「おじいさま、ですか?」
「あ、申し遅れました。私、惣波紗(さ)英(え)と申します」
「ということは、あの惣波ファイナンシャルグループの?」
「えぇ、社長は祖父です」
 頷いてみせると、斉木は驚いた表情をする。
 惣波ファイナンシャルグループと言えば、かなり大規模な金融企業だ。提携したがっている企業は数知れず、各地に支店を持ち、惣波恭(きょう)治(じ)社長の名を知らぬ者はいないと言うほどである。
 だが、斉木が驚いたのはそのことではなかった。
「紗英さんはお体が弱いとお聞きしたのですが、大丈夫なのですか?」
「えぇ、今は。でも、みんな忙しいので、私が代わりに」
 言って、彼女が苦笑してみせると、斉木もすぐに納得した。
「そういえば、お父様は警視総監、お兄様は刑事でいらっしゃいましたね」
「えぇ、おじいさまに親不孝者だと怒られておりますわ」
 笑いながら言う紗英の言葉に、斉木も笑顔を返す。内心では、次期社長の地位を捨てるなどもったいないと思っていたのだが。
「では、おじい様の跡を、貴女が継がれるのですか?」
 何気なく、思ったことを口に出してみる。すると、紗英は一瞬驚いた表情を見せ、それからすぐに笑った。
「今から次期社長候補と関係を持っておこうということですの?」
「いや、そんなつもりは…!」
 紗英の言葉に、斉木は慌てて首を振る。本当に、そんなことなど考えもしなかった。ただ、
「わたしは、次期社長候補でなくとも、あなたにお近づきになりたい、とは思っていますけどね」
 言ってみると、彼女は少女らしからぬ美しい笑顔で微笑んでみせた。
「それは光栄ですわ。私も、貴方がどのようなお考えを持っていらっしゃるのか、とても興味があるの」
「でしたら、このパーティが終わった後、お時間いただけませんか?お見せしたいものがあるんです」
 誘ってみると、紗英はすぐに頷いてくる。その誘いに、裏があるとも知らずに。
「では、また後ほどということで」
「えぇ」
 紗英に一礼をし、踵を返して来賓客の輪の中に戻って行った斉木だったが、彼の頭の中には、もはやパーティのことなど微塵もなかった。


〔2012.10.21 Song by Janne Da Arc 『赤い月』〕

prev  next





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -