戻らない時間の中で 3



 適当に買い物を済ませ、家路につくリン。
「 再臨”か…」
 思わず独りごちるが、当然、誰も答えてくれるはずもなかった。
 神話に語り継がれる伝承。だが、実存すると信じているものは、決して少なくはない。
 それが、戦乱を生み、人の心に負を呼び込むのだが。
――って、こんなこと考えてる場合じゃなかった。
 胸中で思い直し、一息ついてから、リンはようやく辿り着いた自宅の戸を開けた。
「ただいまー」
 言って、中に入っていけば、ややあって、自分より低めの声が帰ってくる。
「お帰り」
 そう言って、顔を出したのは、自分そっくりの金髪の人物。最愛の兄、ライトだ。
「どうだった? 街は」
「相変わらずさ」
 リンの荷物を半分持ちながら聞いてくるライトに、笑顔で答える。
 何かあった、と言えば、あったには違いないのだが、今はそれを口にするべきじゃない。
「それよりライト、今日も夜は魔術の訓練つけてくれよ」
「そんなことしなくても、十分強いだろ?」
「俺はライトみたいになりたいんだよ!」
 素直な気持ちを口にすれば、ライトは笑ってみせる。
 宮廷魔導士の兄は、リンにとっては憧れの存在だ。それは“神子”と呼ばれるような存在になった今でも変わらない。
「大げさだなぁ、リンは」
「事実だって!」
 そんな、会話を繰り返しながら、笑い合う。それが、もうずっと繰り返されてきた、当たり前の日常だった。




〔2012.10.21 Song by CONNECT 『あの雲を追って』〕

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