こんな時期だけどトラ誕SS | ナノ


「はー、腹いっぱいなのになーんか味のはっきりしたもん食いてぇな」

きらびやかなシャンデリアに目がチカチカする。
トラが上着を無造作に投げたソファの、あまりの大きさと豪華さに改めて溜め息が出た。
こんな贅沢な部屋なんて初めてで、絨毯の柔らかさに足元が覚束ない。
身の置き場が無くて戸惑う私を見たトラが、声を殺して笑っているのが分かった。

「んな緊張すんなって。お嬢金持ちなんだからこんな部屋くらい普通なんじゃねーの?」
「そ、そんなわけないじゃない……! お父様達と一緒だとしたって普通のシングルルームだし、一人でスイートなんてとてもじゃないけどありえないもの!」

目を瞬かせたトラ。
思わず熱弁をふるってしまったことに顔が熱くなる。
そんなにムキにならなくても、なんてトラはまた楽しげに笑った。

ひとしきり笑った後、柔らかな笑みを携えたまま窓の外に視線をやるトラ。
ふと香ったのはベッドサイドに飾られた、淡いグリーンのバラだろうか。
夢みたいな夜は、それを尋ねてしまえば終わってしまう気がして、何度も口に出しそうになっては飲み込んできた。
けれど、夜景を見つめるトラの瞳がとても優しいからつい言葉は零れる。

「ト、ラ……」
「ん?」
「……今年は、どうして?」

毎年この日は私がケーキを作って、あまり外食が好きじゃないトラの為に拙い腕を振るって料理して。
記念日というものに基本興味が薄いトラが、初めて積極的に計画を立ててくれたのが本人の誕生日。
不思議に思うのは当然で、そして彼も私の疑問をちゃんと理解しているようだった。
んー、とやたら高い天井を見上げたトラがぽつりと呟く。

「……ま、ケジメっつーか」

どういう意味?
聞きたいのに、なぜかうまく言葉が出てこない。
自分でも説明のできない緊張に襲われて、心臓が忙しく鼓動を刻む。
相変わらず立ったままの私に、トラはポンポンとソファを叩いて隣へ座るよう促した。
いつもは隠れている金色の瞳に、私の全てを見透かされている気がして落ち着かない。
ぎこちない仕草でソファに腰を下ろせば、ごそごそとズボンのポケットを探り始めたトラ。

取り出されたそれに、ひゅっと喉の奥で息が止まった。


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