「トーマ……」
俺の名前を呼ぶ声は不安そうで、けれどどこか優しい響きを持って。
その声に俺はいつだって救われてきた。
真っ黒で苦いその想いはいつも俺の中にあって、それはおまえの存在が大きくなればなる程濃度を増していく。
けれど同時に真っ新で透明な想いも積み重なっていくのだから、おまえへの想いは不思議だね。
(……ったく)
「そこに座りなさい」
「え、と…もう座ってる……」
ほとんど消えてしまいそうな声でそう言って、薄い唇をきゅっと引き結んだ。
お説教される覚悟を決めたのだろう、膝の上に手をきちんと揃えて姿勢を正すまい。
緊張を浮かべた表情に少しだけ苦笑して、ゆっくりと床に膝をついた。
予想外のことにおまえは慌てたように俺の名前を呼ぶ。
「ト、トーマ……?」
「お願いだから、これから俺が言う事……ちゃんと聞いて?」
俺より少しだけ冷たいまいの手を取って、額に寄せる。
俺とは全然違う滑らかで柔らかな感触に、胸の奥深くがじわりと疼いた。
は、と息を吐いて。
お願いというよりも【祈り】に近い、おまえへの想いを口にする。
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「心配だから、もっと警戒心持ってちょうだい?」
「うん……」
「こういう仕事してるんだから、男にどういう目で見られてるかちゃんと自覚して?」
「はい……」
「俺とかシンとか、周りの奴の忠告を聞く努力もしなさい」
「……ごめん」
ふわり、と俺の髪を撫でる柔らかな感触に顔を上げれば、愛おしげに落とされる空色の瞳。
僅かに頬を染めて、口元に緩やかな笑みを携えて。
本当に分かってるのかな、なんて頭の中でため息が零れる。
「……俺がおまえをすげえ好きだってこと、分かって?」
「……うん…、うん」
握った手を引き寄せ力一杯抱きしめる小さな体に、いつだって負けるのは俺。
「トーマ、好きだよ……大好き……」
ほら、ずるい。
めちゃめちゃ叱ってやろうと思ってたのに、今はもうめちゃめちゃ甘やかしたくて仕方ない。
(一番お説教が必要なのは俺なんじゃないの?)
埋めた首筋にキスをして、どうしようもなくおまえに甘い自分を笑った。
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