リリカ様からのリクエスト | ナノ


おまえがオレを弟だと言う度、心に小さなひびが入っていくような気がしてた。
見えないくらいの小さなひびは繋がり合って、徐々にその深さを増して。
このまま一緒に居れば張り裂けてしまうことを、オレは分かっていた。

『シンはわたしのおとうとだもん!わたしはおねえちゃんだから、シンをぜったいにまもるんだから!!』

震える体でオレをかばう、まるでヒーローみたいなその背中。
そんなおまえの後ろ姿に手を伸ばそうとして。

けれどいつだって、この手はおまえに届かなかったんだ。


カーテンの隙間から差し込む光に、意識が夢の縁からゆっくりと戻ってくる。
久しぶりに見た幼い頃の夢は笑えるくらいに鮮明で、まだ耳にあいつの声が残っているような感覚がした。

(なんで今日に限ってこんな夢見るんだよ……)

朝っぱらから忙しなく鳴いている蝉が煩い。
夏を唄う虫の声は憂鬱なオレの気分など余所に、腹が立つくらいいつも通りだった。



「……どうしても引っ越すの?」
「おまえまだそんなこと言ってんの?今日引っ越し当日なんだけど。てかしつこすぎ」

一体何度この押し問答を繰り返しただろう、リリカの頑固さには時折感心すら覚える。
二か月前、家を出ると伝えた時からもうずっとこの調子だ。
だって、だって、とまるで子供みたいに駄々をこねるリリカ。
深く溜息を吐けば、その薄空色の瞳にじわりと涙を滲ませた。

「すぐ泣く……一生会えなくなるわけじゃないだろ、たまには帰ってくるって」
「週末は帰ってきてくれる?」
「週末って…毎週は無理だろ普通に。それじゃ何の為に家出たのか分からないじゃん」
「っ、だから…!何の為に家出るの!?」
「…………」

何の為?

(ほんっと、簡単に聞いてくれるよな……)

純粋な我がままをオレにぶつけて、真っ直ぐに問うリリカに苛立ちが募る。

なぁ分かってよ。
どんどん綺麗になっていくおまえの傍で、大学に入って交流が増えていくおまえの傍で。
オレはきっといつか冷静でいられなくなるから。

そうして膨らむ想いを告げることができないから、だから出て行くんだって。
頼むから分かって。


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