あかりんと円誕生日SS(2013) | ナノ


「撫子さんこっち向いて……キス、させてくださいよ」
「……っ…ま、待って、パスタ――んっ……」

もうザルに上げなきゃいけないのに、そう伝えようとするけれど円は強引に私を振り向かせて唇を奪う。
合わさってすぐに入り込んできた舌の熱さで、彼が既に高揚していることが分かった。

(早くしないとアルデンテが……)

そう焦る気持ちと、私の口内を擽る器用な舌に流されてしまいそうになる気持ちがごちゃまぜに思考を撹拌する。

エプロンの中へ侵入する指先を必死に抑えて。
絡め取ろうと蠢く舌からとにかく逃げて。
上がる息すら端から飲み込まれて。

カチ、と響いた音がコンロの火を止める音だと気付く頃にはもう、足元にうまく力が入らない程だった。
当たり前のようにお姫様抱っこで私を寝室へ連れて行こうとする円。
とろんと溶ける視界に入った銀色の鍋に向かって、力無く腕を伸ばした。

「パスタ…アルデンテが……」
「もう今更遅いでしょ。いいですよちょっとくらい伸びても、後でちゃんと食べますから」

私の首筋や耳にキスを落としながら円はそんなことを言う。
こんな調子で「後で」なんて絶対にちょっと伸びるくらいじゃ済まないに決まっているのに。

先月からレシピを漁って、何度も練習して。
はりきって作ったお誕生日のディナーは結局台無し
きっと二人、伸びきったパスタを微妙な面持ちで食べるのだろう。

(それでも円は美味しいって言うのよね……)

甘すぎる口付けを受け止めながら、そんな光景を想像して私は思わず笑った。




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