背中にもの凄く視線を感じる。
コンロの火を弱めつつそっと振り返れば、ダイニングテーブルに肘をついて私を見つめている円と目があった。
もうほとんど限界まできていた羞恥心がより一層煽られて、持っているおたまパスタサーバーを放ってそのまま逃げ出してしまいたくて。
「……そんなに見られていたら気になって料理に集中できないわ」
「仕方ないでしょ、こんな機会恐らく二度と無いでしょうからね」
まあ、それは正しい。
自分自身どうしてこんなことしてしまったのか謎なくらいだ。
はぁ、とひとつ息を吐いて俯くと、目に入ったのはひらりと波打つベビーピンクのフリル。
あまりに自分らしくない恰好に、思わず苦笑してしまった。
4月11日。
毎年円の誕生日には苦労する。
何か欲しいものは無いかと聞いても「別に何も」の一言で済まされてしまうし、もちろん私がプレゼントした物はちゃんと使ってくれてはいるけれど……
それでもどうせならば彼が本当に喜ぶ物を贈りたい。
ずっとそう考えてきたからだろうか、もうほとんどやけくそみたいなものだった。
バレンタインシーズンにバイト先で制服として支給されたエプロン。
それを着て手料理を振る舞うことが円への誕生日プレゼント。
(……我ながら寒いことしちゃったわね)
再びちらりと後ろを見れば、なんともご満悦気な円が目に入る。
口元は意地悪く笑っているけれど、目は酷く優しいから照れくさくて視線をパスタが躍る鍋へと戻した。
かなり、それはもうかなり恥ずかしい。
でもこんなことで円が喜んでくれるなら嬉しかった。
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