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2012.7.15妄想【シン主 むし暑い日】


7月も気づけばもう半分が過ぎて、梅雨明け前の蒸し暑い日が続いていた。

追い込みの夏、シンは今まで以上に忙しい毎日を送っている。
ご飯を食べる間も惜しんで勉強に励む彼に、私ができることといえば邪魔をしないことくらいで。
声を聞きたい夜も、少しだけでもいいから顔を見たいと思う休日も。
携帯のアドレスを開いてはぐっと堪えて閉じるを繰り返していた。

逢いたい気持ちを我慢しているのはきっとお互い同じ。
そう疑わないくらい想い合っている自信がある今は、逢えない時間すら愛しいと思えた。

まあもちろん。

『明日うち来ない?模試も終わったし久々にゆっくりしようかと思うんだけど』
『っ、い、行く!!』

逢える喜びに勝るものなんて無いけれど。


梅雨時のまとわりつくような蒸し暑さも今日は気にならない。
じわりと浮かぶ汗をハンカチで拭きつつ、シンの家へと向かう足取りは軽かった。

玄関のチャイムを押す指先が少しだけ緊張していることに苦笑して、ドアの内側に感じた人の気配に前髪を整え佇まいを直す。
ゆっくりと開いたドアから覗いたシンの柔らかな笑顔に、胸の奥がきゅう、と狭くなった。

「いらっしゃい。暑かっただろ?早く入れよ」
「うん、お邪魔しまーす」

サンダルを脱ごうとする私の手荷物を極自然に持ってくれるシン。
無駄に甘やかしたりするのは嫌いなんだ、普段からそう言っているくせに彼の行動はいつも優しい。

思わず小さく笑ってしまった私を怪訝そうに見たシンが、ふと表情を変えた。

「……おまえ何かつけてる?」
「え、つけてるって?」
「なんかいい匂いするから……」

呟くみたいにそう言って、シンが不意に私の腰を引き寄せる。
咄嗟の出来事に何の反応もできなかった私は、シンの胸にボスッと音を立てて顔を埋めた。
頭のあたりですんすんと鼻を鳴らす彼に、元々高かった体温がより高くなる。

「ちょっ、シン……!ここ玄関、っていうか嗅がないでよ!!」
「今親いないし別にいいじゃん」
「そういう問題じゃなくてっ!わ、私汗かいてるから……!」
「何、恥ずかしいわけ?」

恥ずかしくて当たり前だと思う、そう言葉にしようとした時首筋に感じたぬるりと生温かい温度。
びく、と体が震えた。

「ほんとだ、しょっぱい」
「――っ!!?」

汗をかいた首筋を舐められたのだと気付いた途端、羞恥心からこれ以上無い程体が熱くなった。

「やだっ、ん!……シ、ン!本当に恥ずかしいからっ!!」
「オレは別に気にならないけど」
「私が気になるの!!離してっ!」
「無理。だっておまえに会ったのすげえ久しぶりだし、我慢できない」
「んっ、ダメ!私、汗臭いもん……!」
「汗臭くねえよ、いい匂いするって言ったろ?」

抵抗する私の体を更に抱き寄せるシン。
本当に恥ずかしくて、本当に離してほしいのに耳たぶを甘く噛まれてしまえば力が抜けてしまう。

「……ふぁ、……シン、お願いっ、シャワー浴びてから……!」

逃げ出したくなりながら堪らずそう零すと、すっとシンの拘束が緩んだ。

「シャワー浴びたら続きしていいんだ?」
「う…………」

悪戯っこみたいな目をして問いかける彼に、私は言葉を詰まらせる。
そんな風に言われるとちょっと躊躇ってしまうのが人の心理で。
黙ってしまった私の答えを待たずに、今度は露出した鎖骨へと舌を滑らせるシン。

「っ!浴びたら続きするから……!!」
「ん、了解」

真っ赤になっているだろう頬に小さくキスを落としたシンが、タオル用意するな、とにっこり笑った。

「…………」

騙されたというか、はめられたというか。
腑に落ちない気持ちを抱えたまま、廊下を歩くシンの後姿を軽く睨むように見つめる。

「何突っ立ってんだよ、早くおいで?」
「…………」

嬉しそうな笑顔を向けて、シンが私に向かって手を差し伸べた。

騙されたけれど、はめられたけれど。

(……まぁ、いいか)

結局のところ、大好きな彼の笑顔には勝てないから。
私は差し出された手を両手で包み込んだ。



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