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2013.2.13妄想【トマ主で切ないバレンタイン】


一口も飲まないまま冷めてしまった紅茶のカップを握りしめて、じっと俺を見つめる姿に苦笑する。

「おまえね、そんなに見られてたら食べづらいでしょうよ」
「ご、ごめん……」

かぁ、と頬を赤くして俯く仕草が可笑しくて、より緩みそうになる口元を咳払いで隠した。

2月13日、バレンタインの前日。
俺の目の前には焼きたてのフォンダンショコラと琥珀色の紅茶。
これでもう何度目になるだろうか、この恒例のイベントは。

今年は上手くできたと思うの。
そう言ってまた不安そうに俺を見上げる顔は、幼い頃からちっとも変ってない。
否、変わっていないと思いたいだけなのかもしれない。
一人暮らしの部屋に何の警戒心も無く俺を招いてしまうのは、俺を男として見ていない証拠で。
まあ、だからこそこうしておまえの一番近くにいられるわけだけど。

(兄貴として、だけどな……)

零れそうになる溜め息を、温かいチョコレートと共に飲み込んだ。
口の中でとろりと溶けたそれは去年よりも若干甘さが控え目で、カカオの苦みと香りが染み渡る。

「……うん、美味いよ」
「っ、ほんと!?」
「ちょっと甘さ控え目だけど、俺としてはこっちの方が――…」

好みだから、と言おうとして口を噤む。
俺の好みなんて関係無いのだから。

バレンタインの試食会をするようになってもう数年。
こいつは毎年同じフォンダンショコラを作って、俺は毎年作る割になかなか上達しないそれを試食する。
これが俺とこいつのバレンタインだった。

決して俺の為のチョコじゃない。
そんなの百も承知だった。

「…………」
「…………」

甘い香りが漂う部屋に落ちるのは沈黙だけ。
本当なら毎年ここで俺が「で、今年はあげる相手ができたわけ?」と意地悪く尋ねて、おまえが「こ…今年はいないけど!」と頬を膨らませて答える。
毎年そうして笑い合って、二人で膨らみ不足のフォンダンショコラを食べて……

でも今年はおまえにそれを聞くことができない。
だっておまえに本命ができたことを、俺はとっくに知っているから。

(よりによってあの人って……絶対苦労するだろ)

自信に溢れたピーコックアイが脳裏を過る。
ゆっくりとスプーンを口に運んで、じわりと広がる甘さに胸が痛んだ。

おまえの口から、好きな人ができたと告げられるのが怖かった。
分かっていても聞きたくなんてなかった。

何年もおまえの兄貴として傍に居たのに、これからもそれでいいと思っているはずなのに。
結局俺は、自分で思っているより全然覚悟なんてできてなかったんだ。

「……もう試食役も必要無いな」

ぽつりと呟く俺に、おまえは曖昧に笑って見せる。
突然大人びてしまったような微笑は、また俺の胸を締め付けた。

『頑張れよ』
その一言がどうしても言えない俺だけど。

おまえの幸せを願っている気持ちはいつだって本物だよ。


◇◆◇


ご馳走様。そう笑って私の頭を撫でてくれたトーマ。
彼が帰った後には、完食してくれたフォンダンショコラの器と甘い残り香だけが部屋にあった。

「……初めて何の文句も無しに美味しいって言ってもらえたなぁ……」

自然と緩む頬に手を当てて、彼が飲み干した紅茶のカップを見つめる。

『ちょっと甘さ控え目だけど、俺としてはこっちの方が――…』

言いかけて止めた言葉の続きは考えなくたって分かった。
最後まで言わなかったのは、私に変な期待をさせない為なのかな。
そんなふうに思って、胸の奥が鈍く痛んだ。 

いつまでもトーマの妹から抜け出せない私。
何度も諦めようと思ったけど、ちょっとでもトーマに会っちゃえば好きの気持ちは大きくなるばかりで。

だから諦めるのを諦めることにしたの。

(トーマ……)

ねえトーマ。

私が毎年同じフォンダンショコラを作る理由が分かる?
少しずつ上達していくそれの様に、私の想いも育っているんだよ。

トーマに褒めてもらったフォンダンショコラで、来年は本命のあなたに告白するから。
ずっと妹のままでなんていられないって自覚してしまったから。


――好きだよ。

――好きだよ。

――あなたが。

――おまえが。



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