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2012.8.19妄想【ノーマルED後円撫】


気付いてほしい。
そう思い待っている自分が卑怯で情けない。
分かっているけれど、今までの関係を壊してしまうことは何よりも怖いのだ。


「円、今日はお店にいたのね」
「どーもこんにちは。今日は新作の発表がありましたからね、面倒ですが一応顔見せとかないとと思いまして」
「ふふふ、店長なんだからもっとお店に足を運べばいいのに……」
「ぼくがここにいたってどーせやることなんか無いでしょ」

円がプロデュースするHANABUSAのジュエリーショップ。
私は彼が新作を公開する度に必ず足を運んでいた。
石とビーズを中心に作られたアクセサリーはどれも本当に私好みで。今日だってもういくつもHANABUSAのブレスレットを持っているのに新作を見てしまったらもう欲しくて堪らなかった。

「あら、円がいる日は売上が凄く上がるって聞いたわよ?近頃は円目当てでここへ通う人も多いっていうし」
「何ですかそれ、ぼくなんか見に来て何の意味があるんだか……」

こういう台詞を聞くと、本当に自覚が無いんだなぁと思う。
円は大人になってとても魅力的な男性に変わった。昔から可愛い顔をしていたけれど、成人してからは色気が増したというか。

「ていうかあなた、新作が出る度必ず買いにきますけど無理してませんか?」
「無理って?」
「だから、ぼくに対して気を使っているとかそういうことです。撫子さんそこまでアクセサリーつけるタイプじゃないでしょ、ぼくの作ったもの以外つけてるとこ見たことありませんし」
「…………」

その意味をなぜ分かってくれないのだろう、普段は困るくらい感がいいくせに。

ねえ円、私がどうして円の作ったアクセサリー以外つけないのか分からない?
今日みたいに円がいる日に偶然私が居合わせていると思ってる?
必ず新作をチェックしているのは友達だからだと納得しているの?

――それとも、全て知っていて知らないふりをしてるの?

「……撫子さん?」

黙り込んだ私を不思議そうに見る円。
そんな私たちを遠巻きに女性客や店員が見ている。
円はそんなこと気付いていないだろうけど、彼女たちの視線が痛い。

そろそろ限界なのかもしれない。
友達としての関係を失いたくないのに、もう友達ではいられないと頭の隅で誰かが告げるから。

「円…………」

静かに、確かめるように彼の名前を呼ぶ。
ありったけの勇気と覚悟を込めて。

「私が円の新作を欠かさず買いに来るのは、友達としての義理だけだと本気で思う?……好きな人の作ったものを身に着けたいと思うのは自然なことだと思うわ」
「…………え?」
「もちろん、円の作るものが私の好みぴったりだからっていうのもあるけれどね」

至極当たり前の様にさらりと伝えれば、円はたっぷりと間をとって目を見開いた。
自分でも不思議なくらい心は落ち着いている。告白するときはもっと緊張するだろうと思っていたのに。
たぶん、準備はとっくにできていたんだ。

まだ瞠目している円にふわりと笑いかけて、ショウウィンドウの中の新作を指差した。

「これ、ください」
「え、あ…ありがとうございます……」

たどたどしくお礼を言ってから自ら包装してくれる円。
その手つきが動揺しているのが少しだけ可笑しかった。
きっとどうしたらいいか分からないのだろう、彼を困らせたいわけじゃないのに。

(返事は急がないわ、彼のペースで少しでも私のことを考えてくれたらそれでいい)

あんなに伝えることが怖かった気持ちも、いざ吐き出してしまえばすっきりするものだ。
昨日よりもずっと前向きに円と接することができる気がする。
こういうのをふっきれるっていうのかもしれない、なんて円の綺麗な指先を目で追いながら思った。

アクセサリーが入った紙袋を受け取って、じゃあ、と踵を返す。
次に新作が発表される時には彼の気持ちに変化があるだろうか、時間が経つのは楽しみでもあり怖くもある。
けれどもう後戻りはできないし、する気もなかった。

「撫子さん」
「――っ……」

後ろから呼び止められて思わず肩がびくりと震える。

「ぼくが作るアクセサリーが全部あなた好みなのは、本当にただの偶然だと思ってんですか?」
「…………え?」

今度はこちらが瞠目する番だった。
振り返って茫然と立ち尽くす私を見て円が柔らかく笑う。

腕に着けていた円のブレスレットが、しゃらり、とひとつ綺麗な音を立てた。




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