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2012.7.2妄想【円撫七夕】


円【七夕の夜】あらすじ↓

日々の忙しさに追われて会えない毎日。
円も撫子も相手を気遣って、ろくに連絡を取らない日が続いていた。

『最期にあの人に会ったのいつでしたっけ……。』

窓を開ければ七夕の夜空は星が瞬いていた。
どうしようもなく声が聞きたくなって、円は撫子に電話をかける。

声が聞きたくて。
声を聞けば会いたくなって。
それは二人同じで。

不意に夜空を流れた星。

『声はこんなに近いのに、同じものを見られるのに。あなたの顔を見ることができないなんて、やはり不本意です……。』

また流れる星を見て円は思う。

願いごとなんて必要ない。
会いたいなら会いに行く。

あなたに会いたくて落ち着かない、何でもないある日の夜。



「……あなたね、ぼく家で大人しく待っててくださいって言いましたよね?どうしてそんな簡単なことができないんですか?」

彼女の家の前に車を停めると、そこには壁に寄り掛かるようにしてぼくを待っている撫子さんがいた。
もう夜もすっかり更けたこの時間、外で待っていれば危険だからと言ったのに。
この人は本当に思い通りにならない。

「だって、早く会いたかったんだもの……。」
「…………。」

俯いて呟く彼女を見て、思わず深い溜息が零れた。
そんな言い方をされてしまえばこれ以上文句の言葉なんて出くるわけがない。
本当に、つくづく思い通りにならないぼくの恋人。

不満気に唇を尖らせて、しかしどこか申し訳なさそうに俯く彼女に苦笑する。

「全く……もういいですから、とにかく車に乗ってください。今日は遅くなっても平気なんですよね?」

声を和らげてそう言ったぼくに、彼女は花が咲いたみたいな笑顔を見せた。



どれくらい時間が経っただろうか。
円と他愛ない話をしながら走る、もう車通りも少なくなった道。

学校であったことや家族との出来事を話す私に、彼は静かに相槌を打ってくれて。
その低くて穏やかな声が酷く心地いい。
会えなかった時間を埋めるようにする会話は尽きることが無かった。

着きましたよ、そう円に言われてようやく周りを見る。
街の明かりが届かないこの場所は、どこかの公園なのだろうか。
円に促されるまま車から降りてみれば、耳に届くのは夏を喜ぶ虫の声だけ。
見上げた空にはたくさんの星が瞬いていた。

「凄い……!街からそんなに離れていないのに、こんな場所があるのね。」
「昔両親に央と流星群を見にここへ連れてきてもらったことがあるんです。あの時は冬で、今よりもっと綺麗に星が見えたんですよ。」

懐かしい記憶に優しく目を細める円。
ぼんやりと彼を見つめながら、改めてしばらく会っていなかったのだと実感する。

夜空を仰ぐその横顔はどこか儚くて、星の光に照らされる銀色の髪が怖いくらいに綺麗で。
なんだか泣きたい気持ちになった。

こうして円に会うのは本当に久しぶりで、会えない時間が続けば続く程【会いたい】と言うことが難しくなって。
これからきっとお互い今まで以上に忙しくなれば二人で過ごす時間も減ってしまうのだろう。

仕方がない。
けれど、寂しくてどうしようも無い……。

「……円。もし私と一年に一度しか会えないとしたらどうする……?」

気付けばそんなことを口にしていた。
小さく掠れた声は初夏の空気を揺らして、円は少し驚いたように私を見る。

「……何ですか突然。そんなのどうにかするに決まってるでしょう。」

(どうにかって。)

私の問いかけの意味を分かっているのかいないのか、至極当然みたいに言い放った円に苦笑してしまった。

「なに笑ってんですか……?」
「だって、それ全然答えになってないんだもの。」
「なってますよ、ていうかそれ以上の答えなんて無いです。会いたいと思うなら川でも山でもどうにかするって言ったでしょ。ぼくの言ったことが信じられないんですか、薄情な人ですね。」

いつも通り饒舌にまくしたててから、ゆっくりと円は私の肩を抱く。
大きな胸とその力強さに心臓が大きく跳ねた。
久々に感じる円の体温は優しくて、苦しいくらいに愛おしくて。

「……どこにいたって何があったって会いに行きますよ。」

一際柔らかくそう言ってくれたから、堪えきれなかった涙がひとつだけ零れた。


会えない時間が寂しくて、会いたいと言えないことが辛くて。
お互い同じことを思って胸を痛めて。

けれどどうしても我慢できなくなれば、こうして会いに来てくれることが嬉しい。

(……そうね、私もどうにかするわ。)

また一緒に星を見たくなったら今度は私からあなたに会いに行く。

きっとすぐに訪れてしまう。
あなたに会いたくて落ち着かない夜は。


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