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2013.3.12妄想【壊れた世界円撫】


「――っとに、あの人は……!」

細かく砕けた瓦礫を踏みつける無機質な音が、暗い空へと響く。
こんなに派手な音を立てて走るだなんて自殺行為だと分かっている。
けれど、そんなことに構ってなんていられなかった。

もうどれくらい走り続けているだろうか。
いい加減足の裏が痛みを訴えているし、何より息が上がって苦しくて堪らない。
酸欠で吐き気すら覚えるレベルだ。
これ以上無いくらいの速度で打つ鼓動は、走っているせいだけじゃない。

高い建物など無い、広く見渡せる街中。
どれだけ探してもあの人の姿が見えなかった。


昨日の昼過ぎ、散歩から帰ってきた撫子さんの態度が少しおかしいとは思っていた。
ぼくと話していても時々考え込むように上の空になって、どこか落ち着かない様子で。
何かあったのかと尋ねても首を振るだけの彼女に、僅かに苛立ったことを覚えている。

いつだってあの人はそうだ。
ギリギリまでぼくに弱さを見せようとはしないから。

しかしこんなことなら昨晩無理やりにでも問いただしておけば良かった。
そうしたら今日あの人を一人で外になど出さなかったのに。

「ッ…はぁ…はぁっ…はぁ……」

額から伝う汗を手の甲で拭って、湧き上がる不安と焦りに叫びだしたくなる。
もう一度来た道を戻ってみようと考え振り返って、建物の隙間に見えた薄桃色の影。
膝をついて小さく蹲るその姿に、息が止まりそうになった。

「っ、撫子さん!」
「……ま、どか…」

駆け寄って名前を呼べば、緩慢な動作でぼくを見上げた彼女。
とりあえず怪我などはしていないようで心底安堵した。

「あなたね、自分が隠れて生活してる立場だって分かってんですか!?基本一人きりで外を出歩くことすら危険だってゆーのに――……」

込み上げる怒りのままに捲し立てて、ふと彼女が腕に抱いている存在に気付く。
ぐったりと力無く横たわっていたのは、まだ生後間も無い程の子犬だった。

「……さっきまでは、まだ…温かかったの」
「…………」
「さっきまで、生きていたのよ……」
「……そうですか」

声を震わせて呟く彼女の肩を、後ろから抱きしめる。
できるだけ優しく、けれどしっかりと。

彼女の肩越しに見えた子犬の亡骸は、どこか穏やかな表情をしている気がした。



弱々しい鳴き声を上げていた子犬を隠れ家へと連れて行かなかったのは、円が犬嫌いだからというわけじゃない。
こんなに小さな体で母犬から離れれば、例え動物病院があったとしたって助かる確率は低いだろうと分かっていたから。
私が連れ帰った所できっと結果は同じだっただろう。
それならば母犬が戻ってくる可能性に賭けた方がずっといいと思った。

人間さえ生き辛いこんな世界では、弱い動物が生き残るには過酷過ぎる。

昨日の夜は眠れないくらい気になって、今日も朝早くに家を飛び出して。
私にできることといえば、弱っていく体を抱いてこの体温を分けることくらい。
けれど微かな鳴き声すら発しなくなった子犬は、やがて呼吸をやめて、静かにその生を終えていった。


冷たくなってしまった子犬を抱く私を、円はずっと抱きしめてくれていた。

たくさん探し回ってくれたのだろう。
背中越しに伝わってくる熱と、酷く速い鼓動。
汗でしっとりとした腕も、項に落とされる吐息も。
確かに生きているのだと告げるその全てが、今は泣きたいくらいに嬉しかった。

「あまり…心配かけないでくださいよ、いくら心臓があっても足りません」
「うん……ごめんなさい」
「……お墓、作ってあげましょう」
「…うん……っ、うん……」

ぽたりと零れ落ちた涙が円の腕にあたって。
私を抱くその優しい腕に強く、強く力が籠った。


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