佐倉さんお誕生日おめでとうSS | ナノ

会いたいの気持ち


いくら広いフロアだといっても行動範囲なんて大体決まっているはずだし、行き会う研究者たちに聞けば彼がどこに行ったのか教えてもらえる。
それなのに今日に限ってどうしても会えなくて、会えないとなったらどうしても会いたくて。




「あ、円!鷹斗どこにいるか知らない?」
「キングならぼくが報告行った時には部屋にいましたけど……急ぎの要件なら無線で呼びましょうか?」
「う…ううん、特に用事があるわけじゃないからいいわ。お仕事の邪魔になっちゃうと悪いし」
「そうですか。じゃ、ぼくはこれで」

あっさりと背中を向けた彼をぼんやりと見つめて、深い溜息を吐いた。


この世界で意識を取り戻した時は、何もできない自分自身が悔しくて、先が全く見えないことが不安で仕方なかった。
自分でも認めざるを得ない癖のある性格上、友達のできにくい私。そんな私の隣に極自然に寄り添って笑っていた鷹斗はここではキングと名乗る絶対的な存在で。
優しい面影と見覚えのあり過ぎるその姿で、私を好きだと言った彼に抱いた感情は恐怖だった。

大好きだった友達を恐いと思ってしまったことが悲しくて、もうあの鷹斗には会えないかもしれない事実に心が真っ白になったのはほんの少し前のことなのに。

(朝から探してるのに、どうして全然捕まらないのかしら……)

今ではこうして一日でも姿が見えないと落ち着かないのだから、時間というのは不思議なものだとつくづく思う。

鷹斗がこの世界の王様として具体的に何をしているかはよく知らない。けれど円やレインの話を聞く限りでは国としての方針や指針をほとんど全て彼が定めているらしい。
どんな小さな報告事項にも目を通し、細やかな指示を怠らない。だからこそ鷹斗はこの荒廃してしまった世界を統べていられるのだろう。
長く接していなければ決して理解できない、否、どれだけ彼と一緒に過ごしたところで理解しきることはできないのかもしれない。
けれど鷹斗はこの世界を大切に思っている。誰よりも。
私がこの世界に少しずつでも慣れてこれたのは、きっとそれを傍で感じてきたからだろう。

もっと彼を知りたい。
それはほとんど衝動のような感情で、鷹斗に会いたいという思いは日に日に大きくなっていった。
迷いも戸惑いも、鷹斗を大切に思う気持ちも。
彼と一緒に過ごす程に曖昧になっていく決意をどう消化していいのか分からないまま、時間は過ぎるばかりで。

今はただ鷹斗に少しだけでいいから会いたい。
馬鹿みたいに単純なその思いだけが私を動かしていた。


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