佐倉さんお誕生日おめでとうSS | ナノ


「やっぱりもう少しミニッツの人員を増やした方が良さそうですねー、アワーから数人引き抜いちゃっても……ってあのー、キング?聞いてますかー?」
「……あ、ごめん、聞いてるよ。うん、それに関しては俺も前から考えてたし、選任はルークに任せてもいいかな?」
「それはもちろん構いませんけど、大丈夫ですか?近頃ちょっと働きすぎなんじゃないですか、ちゃんと寝てますー?」
「大丈夫だよ。それに皆だって今相当忙しいんだから……そんな中俺だけ休んでられないしね」

あなたが倒れでもしたらビショップにまた文句言われますよ、と苦笑いを見せた年齢の割に顔の幼い青年。その左手にはめられた口の減らない彼の友人が、そーだそーだ、とどやすように言った。

ほとんど毎日のように佐倉の部屋に通ってはお茶をして、最近では彼女の方から俺を誘ってくれたりして。
だからこそたった数日ゆっくり顔を見ていないだけでももどかしくて堪らない。
円に彼女の様子を聞いてみたけれど、年末年始だし忙しいんでしょう、なんて特に気にした様子は無かったとか。

(俺に会えないことをちょっとでも寂しいと思ってくれてるのかな)

10年間ずっと佐倉の意識が戻る日を待っていた。その為には努力も惜しまなかったし非情にだってなれた。
それでも疲れてしまった時は彼女の眠る部屋へと足を運んで、穏やかな呼吸を繰り返す姿を見て安らぎを覚えて。
望みが叶った時にはもうそれだけで十分に幸せだと思えたのに、今ではそれだけじゃ全然足りないのだから人というのは強欲な存在だ。

意識を取り戻した彼女が俺に何を言うかなんて全部分かっていたつもりだった。
けれど本当の意味で理解したのは実際に君に言われてからで。俺が知らなかった感情をいくつも植え付けていく彼女に、時々自分を見失いそうになったり。
君と過ごす時間が増えれば増える程、俺は君無しでは生きていけないのだと実感する。

もっと声が聞きたくて、もっと笑ってほしくて、もっと俺を見て欲しくて、もっと触れたくて。
際限ない欲求を持て余しては、君の隣にいられるという現実を噛みしめていた。

(ええと…、あとはミニッツに各地区への調査報告書を上げてもらって、と)

ルークがまとめてくれた書類をパラパラめくって、全然内容が頭に入って来ないことに苦笑する。流石に疲労が溜まっているようだ。

ちょっとだけでも彼女の顔が見れれば元気も出るのにな。
なんて脳裏を過った佐倉の笑顔にふわりと胸が軽くなって、現金な自分自身にまた苦笑した。


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