これ以上無い程に優しく柔らかいキスに、心はギシギシと音を立てて軋んで。
感情が波立つ感覚に堪え切れなかった涙が溢れる。
レインの温度が額から離れても目を開けられずにいると、不意に視界が暗くなった。
瞼の上を彼の手のひらが覆ったのだと気付いた時、そっと私の唇に触れたもの。
それがレインの唇だと理解したのは、もう彼が私から離れてしまった後だった。
「……妹にするキスじゃ、無いわ…」
「そうですかー?まあそうかもしれませんねー」
のらりくらりと交わす彼は普段通りの彼で。
「……君に良い夢を見て欲しいので、今夜は特別です」
否、普段とは違うのかもしれない。
良い夢なんて、私が今夜見る夢はもう決まっているのに。
苦しい。
苦しい。
愛おしい…。
「……もう一度して?」
私のお強請りに、予想通り眉頭を寄せて困った笑顔を見せたレイン。
そうして再び唇に落とされるこのキスには、どんな意味があるのだろう。
けれどそれを考えたところで何も変わりはしないと分かっていた。
合わさった唇から零れる吐息が甘く溶ける。
ふわふわと形を無くしていく意識の欠片に必死に縋りながら、私はまた涙を流した。
―――そして私は夢を見る。
毎夜訪れる夢の中で。
私の帰るべき時の止まった世界の中で。
今夜も私は、いるはずの無いあなたの姿を探すのだ。