「さて、と。じゃあボクは戻りますねー」
「っ…、レイン……」
す、と立ち上がった彼の白衣の裾を思わず掴む。
縋るように見上げる私の髪をさらりと撫でたレイン。
まるで壊れ物を扱うみたいな優しい指先に泣きそうになる。
「…お休みのキスを御所望ですか?あなたは意外と甘えっこですよねー」
からかうような軽口も今は私の胸を締め付けるだけ。
桜色の瞳の中には、行き場の無い苦しさに耐える私の姿が映っていた。
こんな表情を見せたらレインが困ってしまう。
そう思ってぎゅっと目を瞑った。
しっとりとした唇が私の額に押し当てられて、心臓が小さく跳ねる。
いい夢が見られるおまじないだと言って、時々レインはこうして額にキスをくれた。
『妹が怖い夢を見てぐずっている夜はね、こうしてあげると落ち着いて眠ってくれたんですよ』
穏やかな瞳で少しだけ遠くを見つめながら、大切な思い出を話してくれたレイン。
きっと彼は私と妹さんを重ねているのだろう。
私に情が湧いてしまったレイン。
鳥籠の中から私を逃がそうと決めてしまったレイン。
傲慢になり切れ無かった、脆くて優しい、憎むことのできないひと。
(……でも、私は…)
心の底から憎んででもこのひとの傍にいたかった。
時折見せる悲しい顔も、自嘲するような笑顔も。
全部私が受け止めたいと思っていた。
この世界で、彼と共に生きたかった……
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