寅誕生日記念SS | ナノ


私の頭を小刻みに揺らす彼の指をタオル越しに感じる。
トラの手つきは凄く優しくて、ふわふわした心地良さに思わずうっとりしてしまう。
ふと伏せていた目線を上げると鏡越しにトラと目が合った。射抜くようなその眼差しにピリッと電気が走る。
弾かれるように視線を逸らした私の顔はきっと赤くなっているだろう。
頭の後ろでトラがくすりと小さく笑った気配がした。

「手ぇ止まってっけど?」
「……トラがじっとしてろって言ったんじゃない」

鏡に映るトラを睨み返して不機嫌な声を出してみるけれど、やはり彼は楽しそうに笑みを浮かべるばかりで。
その余裕そうな顔が悔しくて、トラのパンツを握りしめながら再び彼をじろりと睨んだ。
ふと私の頭を拭いていたトラの手が止まる。

「……なんかお嬢、いつもと違う匂いがすんな」
「…んっ……」

耳元で囁かれた声、直接脳に吹きこまれたみたいなその低い声にぞくりと腰が震えた。
咄嗟に堪えられなかった吐息が零れる。

「り…旅館のシャンプー使ったから。トラだって同じでしょ?」
「んー……」

曖昧な返事をしながら私の項に鼻を摺り寄せるトラ。
頭を拭いていたトラの手がするりと私のお腹に回される。
薄い布越しに手のひらが置かれた場所が淡い熱を持った。

軽く肌に触れている唇が項から首筋をなぞって耳へと滑り、濡れたリップ音が響く。
ビクッと揺れた体を強く抱きしめた彼が浅い息を吐いた。
ただそれだけのことなのに私の鼓動はこれ以上無いくらいに高鳴ってしまう。

「やっ…ト、ラ…くすぐったい……」
「くすぐったいだけじゃねぇだろ?」

耳元に落とされた言葉と共にぴちゃ、と頭の中で反響した水音。
耳の輪郭を食むように舐められて、まだ湿り気を帯びたトラの柔らかな髪に首を擽られて。
油断すれば膝から崩れ落ちてしまいそうになるのを必死に堪える。

「なぁお嬢…こっち向けよ……」

命令するような言い方とは裏腹な、穏やかで甘い声。
低く放たれたその声に、抗うことなんてできない私の体は呆れる程素直に動いてしまう。
ゆっくりと顎を引き寄せられて、熱い唇が重なった。

「んっ……ん、ふ……」

始めから私の奥深くまでを探るようなトラのキスに感情をかき乱される。
時々漏れる息さえも許さない、私の全てを飲み込む嵐みたいな口付けに眩暈を覚えた。
唇を通して甘美な毒でも注がれているのだろうか、じわりじわりと全身が溶けていくようで。

生理的な涙で朧げになる視界に映るのは、澄んだ青色と金色。
鏡に反射されたそれではなく、間近で直接交わるお互いの瞳。
胸の奥、どこか遠い場所がなぜかちくりと痛んだ。

トラに見つめられると時々訪れる不思議な感覚。
けれどそんな思考もすぐに溶けて輪郭を無くしてしまうのだけれど。

「撫子……」
「ぁ……トラ……」

彼に与えられるどんな小さな刺激も敏感に拾い上げて熱くなる身体。
名前を呼ばれれば縋るようにトラを呼び返す。

なんでもない日常の中で、いつだって私たちはお互いを求めあって。
そしてそれが当たり前な関係であることが嬉しくて堪らない。


部屋に響く雨音とお互いの呼吸だけを耳に、私を作る全ての感覚は蕩けて消えた。




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