むーかちん誕プレ | ナノ

初めてを、君と


体が震える。
彼に気付かれてしまうから止まってほしいのに。

これからする行為が怖いとか堪らなく恥ずかしいとか、もちろんそれもあるだろう。
けれど私が本当に怖いのはそんなことじゃなかった。

電気を消しても、満月に近い今夜は窓から差し込む淡い光で室内は薄っすらと明るい。
真っ直ぐに見つめられるその緋色の瞳から逃げ出したい衝動に駆られてしまう。
私の髪をゆっくりと撫でる央の表情は怖い程に艶っぽくて。
ふわりと彼が近づく気配。馬鹿みたいに速かった鼓動がドクンと大きく跳ねる。
うまく呼吸ができなかった。

「むーかちゃん……。」
「…………っ!」

あとほんの数センチで唇が触れる距離、吐息混じりに呼ばれた名前に体が震えてしまった。
しまった、そう思った時には既に遅くて。
少しだけ体を離した央が心配そうに私の顔を覗き込む。

「……怖い?」
「……怖く、ないわ。」

掠れた声でそう言った私に央は小さく笑った。

「こーら、そんなばればれの嘘つかない。僕は君の恋人なんだから。思ってること、ちゃんと言って?」
「…………央……。」

緊張で張りつめていた気持ちがほろりと解けて、何だか涙が出そうになる。
いつだって央はこうして私を大事にしてくれて、だからこそこんな思いを抱いてしまうことが嫌で。
けれど不器用な私はそれをうまく隠すこともできない。
怖いなら無理しなくてもいいんだよ、そう優しく言ってくれる彼にきちんと向き合わなければと思った。

どくんどくん、と存在を主張する心臓。

口を開きかけては言葉を飲み込んでしまう私の手を央がそっと握ってくれる。
大丈夫だよ、ゆっくりでいいから。
言葉無しに伝わってくる彼の優しさを痛いくらいに感じた。

「央とその、そうなることが怖いわけじゃないの。」
「うん。じゃあ何が怖い?」
「……変わること。」
「変わる……?」
「うまく、言えないけれど……変わってしまうことが、怖いの……。」

二人で作り上げてきたこの空間。
穏やかで温かくて、そして何よりも大切で愛おしい関係。
その形が変わってしまったら……、そう思うと一歩踏み出すことがどうしても怖かった。


prev / next
[ back to top ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -