外は雲が出てきたのだろうか。
時折窓から入る明かりは、央の穏やかな微笑みを浮かび上がらせては隠す。
いつから彼はこんな大人びた表情を作るようになっただろうか。
苦しいくらいドキドキするのに、けれど同時に不思議なくらい心地良くて安心できた。
初めてCZのメンバーに付き合っている事実を報告した時の皆の驚いた顔が忘れられないよね、と涙が出るほど大笑いして。
ひとしきり笑った央が深く息を吐いて、そしてぽつりと呟くみたいに言う。
「……初めて君に好きだって告げた時、本当に怖かった。」
「…………央。」
「君のことが大好きで、その気持ちが友達に対する好きとは違うことに気付いて凄く戸惑って。言ってしまったらもう今まで通り友達ではいられないって分かっていても、それでも苦しくて……言わずにはいられなかった。」
一言一言、確かめるように丁寧に落とされる言葉。
彼の真っ直ぐな想いは、私の心に沁み込むみたいに広がっていく。
「ねえ。一緒にたくさんの初めてを経験して、僕たちの関係は本当に変わったよね。」
「……ええ、……だって恋人になったから。」
私の中で特別な存在になった央という存在は生活を一変させた。
何をするにも央の顔が浮かんで、どこに居ても央のことを考えて。
私の思考や行動は、いつも央と共にあった。
「むーかちゃんはさ、ぼくとの【初めて】を後悔したり、それが辛い思い出になったりしたことがある?」
「…………え?」
不意に投げられた問いは、私の胸に引っかかっていた小さな棘に触れる。
後悔?辛い思い出?
――――そんなの……。
「僕はひとつも無いよ。君との【初めて】は、いつだって嬉しくて幸せだったから。」
ドクン、と大きく鼓動を打って。
身体中を駆け巡ったのは甘い電流。
迷い無くそう言い放つ央に込み上げた想い。
溢れて止まないその思いは、些細な棘なんて簡単に包み溶かしてしまった。
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