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ケントと同棲


冥土の羊。
女子のロッカールームは今日も騒がしかった。

「先輩、ケントさんと同棲してるって本当ですか??」

ミネの質問に一番に反応したのは私ではなくサワだった。

「同棲〜?あの堅物のケントさんが〜?あり得ないでしょ!」
「...............。」
「え、ちょ、何黙ってるの?まさか本当なの!?あのケントさんとどうせ......っ!」
「こ、声が大きいよ!」

廊下どころかフロアまで届いてしまいそうな声のボリュームに、あわててサワの口を塞ぐ。

「同棲っていうか、ちょっと前に変な人がアパートの周りをうろうろしてたことがあったの。その時念のためにって泊まり込んでくれて、それから、なんとなくそのまま......。」

最後のあたりは少しもごもごと口ごもってしまった私に、着替えていた手を止めた二人が詰め寄ってくる。

「...ってことは、やっぱ.....?」
「ちょっと想像できないんですけどー、ケントさんってどんな感じなんですかぁ?」
「どんな感じって.......。」
「なになに?してる時は甘い言葉とか囁いてくれたりするの?」
「やだー、サワ先輩露骨!てゆーか、すごい事務的なイメージですよ、私。」
「確かに!では、始めるとするか。とか言ってそー!」

好き勝手喋りだしたサワとミネ。
楽しそうな二人とは裏腹に、私の心は暗く沈む。

「...え、何よ?どうしたの?」
「........何もないもん。」
「は?」
「一緒に暮らしてても、何もないもん!」

数秒の間の後、ロッカールームに女子二人の叫び声が響き渡った。


ケントさんと半同棲のような生活を始めて1ヶ月とちょっと。
彼は私に指一本触れることはなかった。

たまにしてくれるキスも、家のなかではオデコとか頬っぺたにだけ。
始めこそ彼を意識していた私も、今では本当にただのルームメイトとして気を許してしまっている。

「それ絶対おかしいですって!ってゆーか良くないです!付き合ってるんですよね??」
「......なんか自信なくなってきた。」
「ちょっと〜、しっかりしなよ。だいたいケントさんどこに寝てるの?一緒に寝てないの?」
「...布団持参で来たから。」
「「あはははははははは!!!」」
「..........二人とも笑いすぎ。」

ケントさん最高、と大笑いする二人を置いて冥土の羊を後にした。


とぼとぼと家路につきながら、もう何度目かの溜め息を吐く。
私にとっては笑い事でも何でもなかった。

そんなに私は女としての魅力に欠けるのだろうか。

(誰かに相談したい...。)

そう思って一番に浮かんだのは、彼の唯一の友人と言えるイッキさんだった。



「あはははははははは!」
「.................。」

大学の構内に置かれたベンチ。
決死の覚悟で相談した結果、返ってきたのは本日二回目の大笑いだった。

「いや、ごめんごめん。でも、お、おかしくて...っ、ははは!」
「そうですか...。」

本日一番深いため息が零れた。

「あのね、君たち二人は会話が足らないだけだと思うよ?」
「会話、ですか?」

そうだろうか、と考え込む私の思考を先回りしてイッキさんが続ける。

「日々の出来事じゃなくて、お互いの思ってることをちゃんと話さなきゃ。ケントはああいう奴だから、直球で言わないと伝わらないよ?」

直球で気持ちを伝える。
それはすごく難しいことだ。こんな話題なら尚更。

でも、今までのことを思うと、彼は私が素直にさえなればそれを真っ直ぐ受け止めてくれる。そんな人だった。

「ありがとうございます。私、ちゃんと話してみます。」

立ち上がってそうお礼を言うと、イッキさんはふわりと優しく笑った。




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