AMNESIAblog妄想まとめ | ナノ


自分の気持ちを素直に言葉にすればいい。
不器用な私たちには少しだけ勇気が必要だけれど、それでもそうやって歩んできた二人だから。


「すまない、教授と話し込んでしまって随分遅くなってしまった。」
「あ、おか、おかえりなさい。」

緊張から思わず噛んでしまった。
ケントさんは特に気にした様子もなく、いつも通り私の頭をさらりと撫でて洗面所に向かう。
毎日手洗いうがいをかかさない彼の後姿を見送りながら、心の中でぐっと握りこぶしを作った。

(ちゃんと気持ちを言葉にする!!)


「君はもう夕食は済ませたのか?」
「あ、いいえ。ケントさんがいつ帰るかわからなかったので…。用意だけはしてあります。」
「また君は…。八時を過ぎたら気にせず先に食べてくれて構わないと何度も言っているだろう?」

そう言いながらもケントさんはどこか嬉しそうに見えるから、私はいつもこうして彼を待ってしまう。

彼の好みに合わせた少し辛口のカレーを二人で食べて、お互い今日会った出来事を話し合う。
彼が静かに笑って、私もその笑顔につられて笑って。
二人で過ごす穏やかな時間が大好きだった。


「ごちそうさま。私が片づけをするから君は先に風呂へ入るといい。」
「え、あ……ありがとうございます。」

促されるままにお風呂を済ませ。

「体が冷える前に髪を乾かして布団に入りなさい。私が出てくるまで待たずに寝ていてもいいからな。」
「あ、はい……。」

言われるがままに髪の毛を乾かして布団に入り。

「ん?まだ起きていたのか?まだ明日があるからもう寝なさい。電気を消すぞ?」
「あ……。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい…。」

ぱちり、と消された電気。暗闇が包む部屋。

「……………。」
「……………。」

(ちがーーーう!!!)

話をするきっかけを掴めないまま、普通に寝床についてしまった。
これではイッキさんに相談した意味がない、と自分自身を奮い立たせる。

「ケントさん!!」

がばっと起き上がって、床に寝るケントさんに話しかける。
突然大きな声で名前を呼ばれた彼は、当然だが酷く驚いて体を震わせた。

「な、ど、どうしたっ??」
「話があります!」

こういう話をするのは勢いが大事。
とか冷静に考えているつもりでたぶん、いや、完璧に動転していたのだろう。

「私は女性としての魅力がありませんか??」

第一声がそれだった。
小さな電球だけが照らす部屋の中でも、ケントさんが目を丸くして固まっているのが分かる。
自分から出た言葉をもう一度頭の中で反芻して、そして私も固まった。

「……き、君は寝ぼけているのか?」
「………起きてます。」
「では、アルコールを摂取したのだな、君は酔っているのか?」
「………しらふです。」

ケントさんが慌てふためいている姿に、何だかおかしくなってきてしまう。
少しだけ頬を緩ませた私を見て、彼はむっと眉を顰めた。

「君は私をからかっているのかな?」
「からかってなんていません。ただ、ケントさんの気持ちが知りたいんです。」
「…………。」

暫く沈黙が続いて、彼が布団から出て佇まいを直す。
ケントさんは、きっと私の気持ちも言いたいことも分かっているのだろう。
それに対して真摯に答えてくれようとする彼を、やっぱり愛しいと思った。

「私は………、君を大切に思っている…。」

ぽつりと静かに落とされる言葉。

「ご両親にも申し訳がたたないだろう?…私は、君の安全のためにここに居るのだから。」

本当は全部分かっていた。

彼が私を大事にしてくれているからこそ触れてこないのだということ。

けれど。

「君に魅力がないわけじゃない。そんなことはあり得ない。」

ただ。

「ケントさん。」
「……何だ?」
「私はケントさんともっと近づきたいと思っています。…ケントさんは?」

聞きたかっただけなんだ。

「……私は君以上にそう思っているよ。」

その一言を。


どこか気恥ずかしい空気が流れて、お互い黙ったまま聞こえるのは時計の針の音だけ。
口火を切ったのは彼だった。

「…君の覚悟ができているなら、こっちへ来てくれるか?」
「えっ?…私がそっちに行くんですか??」
「仕方ないだろう、君のベッドは私には小さすぎる。」
「あ……。」

自分から相手の布団に入ることがこんなに緊張するものなのだと初めて知った。
恐る恐る近づくと、ケントさんが掛布団を上げて中へ入るように促してくれる。
ふわりと覆いかぶさった彼は眼鏡を外していて、いつもと違うその姿に心臓が更に激しく高鳴った。

間近で見つめられて、恥ずかしさに耐えきれずに目を伏せれば、ゆっくりと重なった唇。

「……ん…。」

徐々に深さを増していく口づけに、頭がくらくらする。

「ん、…君は、どこを触っても柔らかいな…。」
「あっ…ケン、トさんっ……。」
「肌も、こんなに滑らかで…、ん……。」

体中にケントさんのキスが降り注いで、胸が破れそうなくらいの鼓動を刻む。

「っはは。すごいな、心臓の音がこちらまで伝わってくる。」
「―――っ!!どうしてケントさんはそんなに余裕なんですか???」

恥ずかしくて思わず怒鳴ってしまった。
さっきまではお互い緊張していたはずなのに、どうして彼はこんなにも落ち着いているんだろうか。

「いや、緊張はしているよ。しかしあまりに君が露骨に緊張するものだから、逆に落ち着いてしまったのかもしれないな。」
「っ、ずるいです!」
「…怖いかい?」
「……いいえ。」

じっと見つめて首を振れば、ふっと微笑んでくれたケントさん。
首筋を彼の舌が滑って、耳たぶを甘く噛まれて、ダイレクトに響く水音に体が震える。

「ケント、さん…、あっ…、っケントさん……!」

彼に与えられる感覚に、ただ溺れることしかできなくて。
熱に浮かされるようにただ名前を呼び続ける私に、ケントさんが額に小さくキスをくれる。

「……君を愛している。」

誠実で神聖な響きを持つその言葉に、涙がひとつ零れた。




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