2011,11,15妄想【シンと着ぐるみ】
「ふー...、あっつ......。」
街にある小さなテーマパーク。
そのスタッフルームの裏で今日初めての休憩をとる。
(頭部分だけで何キロあるんだよ。)
猫なのか熊なのか分からないキャラクターの頭をゴロリと地面に転がした。
数時間ぶりに吸う新鮮な空気が肺を満たして大きく溜め息を吐く。
冷えたスポーツドリンクをぐっと煽った。
「シン.........。」
「―――っ!?」
この場で聞こえる筈のないよく聞き慣れた声に、思わずスポーツドリンクを吐き出しそうになった。
焦って振り返れば、そこには目を真ん丸に見開いて俺を凝視する恋人の姿。
「なっ、おま!何でこんなところにいるんだよ!?」
「...最近シンの様子がおかしいからトーマに聞いたの。そしたらここでバイトしてるって教えてくれて......。」
(あいつ......!)
モコモコした愛嬌溢れる体。
汗だくな頭だけを出して片手にスポーツドリンクを持つ何とも形容し難い間抜けな姿。
世界で一番見られたくない相手にこの姿を曝してしまったことに、思考力が停止した。
「シン、今日予備校だって言ってた。どうして私に嘘ついてこんな所でバイトしてるの...?」
ぎゅっとスカートの裾を掴んで俺に問い掛ける様子は、怒っているようでどこか悲しそうに見えた。
(トーマのやつ、どうせばらすなら肝心な理由も言っておけよ...。)
気のきかない幼馴染みに心の中で舌打ちをする。
あいつのことだから、どうせわざとだろうけれど。
「シン...!」
少しだけ頬を膨らませるこいつは、こんな時でも可愛いからどうしようもない。
できれば秘密にしておいたまま、こいつを驚かせたかった。
しかし喜ばせようとしたのに悲しませてしまっては意味がない。
目を閉じて小さく息を吐いた。
「...お前、旅行に行きたいって言ってただろ。」
「え......?」
「紅葉見ながら温泉に浸かりたいー、った言ってただろこの前会った時。」
「あ...、そういえば......。」
俺の言いたいことが分かったのだろう。
眉間に寄っていた皺が消え、口元が緩んだ。
お互いに何と言葉をかけたら良いのかわからず、しばらくの間沈黙が続く。
いい加減恥ずかしくなってきた頃、ゆっくりと俺の傍に近づいてくる姿が目に入った。
「っおい、すげー汗かいてるんだからこっち来んなよ。」
「やだ。」
やだって...。
目を反らす俺の顔を覗き込むように身を屈めたあいつの唇が、そっと俺のそれに触れた。
驚いて顔を上げれば、真っ赤に染まった顔と視線がぶつかる。
「ありがとう、シン...大好き。」
少しだけ困ったように笑った恋人。
一生叶わない、そう思った。
『......シン。』
『...何だよ。』
『笑ってもいい?』
『............。』
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