2012,3,11妄想【主が痴漢にあったらシンはどうする?】
予備校から出てきたシンの姿を見たら、すごくホッとした。
やっとちゃんと呼吸ができたような気がして、大きく息を吐く。
「シン、お疲れ様…!」
「……何、なんでそんな顔してんの?」
いつもならここで「ごめん、待たせた?」とか言ってくれるシンの第一声はそれだった。
「そ、そんな顔って??」
「助かったーみたいな顔。」
……鋭い。
何かある度に思うけれど、私はそんなに顔に出やすいタイプんだろうか。
たぶんここで、何でもないよ、なんて言っても無駄。
シンは昔から私の嘘をすぐに見抜いてしまうから。
少し迷って、口を開く。
「ここに来る途中、…痴漢にあったの。」
「………はぁ?どこで?」
「電車。」
暫く沈黙が流れて、シンがはぁー、と重い溜め息を溢した。
「自業自得。お前はいつも露出が多い上に危機感が足りないんだよ。」
「なっ………!」
耳を疑った。
普通恋人が痴漢にあったと聞いてそんな言葉が出てくるだろうか。
確かに彼の性格上、手放しに甘やかして慰めてくれるなんてあり得ないとは思うけれど。
それにしたって冷たすぎる。
「酷いよっ、何でそんなふうに言うの!?」
「ちゃんと言わないと次からお前気を付けないだろ。」
「自業自得なんて、私が悪いみたいな言い方…!」
「お前が悪いとは言ってない。ただお前の格好とか態度にも問題があるって言ってんの。」
言うんじゃなかった。
本当に言うんじゃなかった。
痴漢にあったというだけで気分が落ち込んでいるのに、シンにこんなこと言われて踏んだり蹴ったりもいいところだ。
「………帰る。」
「は?……お、おい待てよ。」
「今日はもうシンと居たくない!」
踵を返し大股で歩きだせば、ぐっ、と引かれる腕。
罵ってやろうと勢いよく振り返って、思わず固まってしまった。
だって、シンがあまりにも不安気な表情を私に向けていたから。
「一人で帰せるわけないだろ…!バカ!」
怒ってるのか泣きそうなのか分からない顔で。
必死にすがり付くみたいに。
「………何で?」
「え……?」
じ、と真っ直ぐに見つめて問えば、パチパチと目を瞬かせたシン。
別にさっきの仕返しという訳じゃないけれど、ちゃんと言って欲しい。
「どうして一人で帰せないの?」
「……っ、…う………。」
顔を赤くして口ごもる姿に、笑いが込み上げそうになってしまう。
いつもあまり顔色が変わらないシンだから、こんなふうに焦る所を見ると何だか堪らない気持ちになる。
「…………帰る。」
「…っ!し…、心配だからに決まってるだろ!!」
真っ赤になって叫んだシンにガバッと抱きついた。
「わっ、おま………!」
「シン大好き!」
生意気で可愛くなくて愛しいひとつ下の恋人。
抱き締められながら唇を尖らせるシンと、ふたり手を繋いでゆっくり歩く。
もう嫌な気持ちなんて一欠片も残っていなかった。
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