2012,2,16妄想【シンとバレンタイン】
どういうタイミングで渡したら良いのだろう。
玄関の前。
チャイムのボタンに指を乗せたまま、私は考え込んでしまう。
会った途端に渡すのも変だし、かといって部屋に上がってしまうと言い出すきっかけが掴めない。
きっとあまり深く考えないで渡せばいいのだろうけど、凄く勇気がいるのだ。
シンと恋人同士になって初めてのバレンタイン。
去年までとは全然気持ちの入れ方が違うから、とてもじゃないけど気軽に渡すことなんてできない。
(き、緊張する……。)
手作りのフォンダンショコラが入った紙袋が、やたらと重く感じた。
暫く玄関の前で悩んでいると、突然ガチャリと開いたドア。
思いがけないことに私は飛び上がる程驚いてしまう。
訝しげな顔を見せたのは悩みの種である彼。
「……お前さっきからそこで何してんの?」
「あ、えっと…、気付いてたの…?」
「リビングから丸見えなんだよ。さっさと入れ、風邪ひくだろ。」
「お、お邪魔します…。」
私の手を握ると、冷たいと言って両手で包んでくれる。
馬鹿じゃないの、なんて余計な一言はあったけれど、ぶっきらぼうで優しい彼。
大好きだな、と心から感じた。
しかし完全にタイミングを逃してしまった。
お茶飲む時にでも渡せばいいか。
なんて考えながらシンの後ろを着いていった。
どうぞ、そう促されて入るシンの部屋。
彼の部屋はいつ来ても片付いていて、男の子なのに偉いなぁ、と関心してしまう。
部屋に二人きりでいれば、まだ少しだけドキドキと高鳴る心臓。
こんなことをシンに知られるのは悔しいから、そっと彼の傍から離れようとした。
でもそうはできなかった。
私が動く前に、シンが後ろから私を抱き締めたから。
彼の柔らかな髪の毛が私の項を擽る。
「お前超甘い匂いする。何これ、食べてってこと?」
「な、シ……っひゃ!」
ペロリ、と首筋を舐められてしまえば、言葉なんてどこかへ消えてしまう。
「ほんとに甘い……。」
「ふ…っん………。」
耳朶をかじって。
ほっぺたを舐めて。
まるで私を味見しているみたいなシン。
結局どんなに考えたところで意味は無い。
彼の行動なんて読めるわけがないから。
チョコよりも簡単に溶けてしまう私は、ただ彼の腕に抱かれて形を変えるだけ。
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