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2012,2,3妄想【シンと豆まき】


「………何それ。」
「豆です!」

いや、それは分かってる。

アパートのドアを開けた瞬間、目の前に押し付けられた。
プラスチックでできた小さなマスの中には、小指の爪程の大豆が溢れんばかりに詰まっていた。
今日は節分だから豆まき用の豆なのだろう。
それは分かる。

分からないのは、こいつの顔を覆うどこか間抜けな赤鬼の面だった。

「なに、お前が鬼やんの?何で?」
「え、と…毎年シンかトーマが鬼だから、今年は私がって思って。」
「毎年って…、俺、最後に豆まきした記憶小学生なんだけど。」
「……まぁいいじゃん!撒けばいいじゃん!」
「いや、意味が分からないから。」

はい、と半ば無理矢理マスを押し付けられる。
たかが節分でどんなテンションの高さだよ。
そう突っ込んでも曖昧な笑いしか返って来なかった。

「はい、鬼は外ーってして。」
「……勘弁しろよ。」

両手いっぱいの豆を俺に押し付けて、面の中から聞こえるのは無邪気な笑い声。
間抜け過ぎる面の奥で楽しそうに笑うから、まぁいいか、なんて思ってしまうあたり俺は本当にこいつに甘いと思う。


「あ、もうこんな時間……。ごめん、シン、今日これからレポート書かなきゃいけないから…。」
「何だよ、帰れってこと?いつも俺に構わずやってるじゃん。お前が課題するなら俺も勉強するし。」
「その、凄く厳しい先生だから集中して書きたいってゆーか…ごめんね。今度埋め合わせするから!」

ぱん、と顔…というか面の前で手を合わせる姿は何かシュールだ。

「別にそんなのいいけどさ…、俺今日結局豆撒いただけなんだけど。ていうかお前、いい加減その馬鹿みたいな面取れよ。考えてみたら今日まだ一度もお前の顔見てない。」
「え、と…、汗かいてるから。メイク崩れちゃってるし、恥ずかしいから見られたくないな。」
「は?」

何だその訳の分からない言い訳。
……ていうか。

「…お前、何か声おかしくない?」
「……鬼仕様です。」
「…………。」
「…………。」

じ、と睨めばバツが悪そうに小さく肩を竦める赤鬼。
その厚紙でできたお面を取った。

「っ…、お前、顔真っ赤じゃん!熱あったのかよ?何で隠すわけ??」
「だって節分……。」
「だから何!?節分なんて無理してやるイベントかよ…?ほんと、何考えてんの?」
「だって……、だって今年シンは大学進学で、生活も変わってきっと色々大変だから…。こういうのって縁起物でしょ?」
「…………。」

もともと風邪で鼻にかかっていた声が、より鼻声になって。

縁起を担いで?俺の為に辛いの無理して?馬鹿じゃないの?

頭に浮かんだ言葉より、赤鬼の面を取ったって真っ赤な顔をしてる、こいつを愛しいと思う気持ちの方がずっと強かった。

「……シン、うつる前に帰ったほうがいいよ?」
「試験も終わってもう合格してるんだから、別にうつったっていいよ。」
「でも…。」
「うるさいな、いいからもう寝ろ。」
「………シン…。」

涙目になって俺を見上げる細い体を抱き寄せる。
ふわりと甘い香りがして、嘘みたいに柔らかくて、少しだけ熱い体。

「豆。」
「え…?」
「年の数だけ食うんだろ?早く治して食うぞ。」

背中に回した腕にぐ、と力を籠めれば、俺の腰にも腕が回る。
うん、そう一言だけ零して、そしてまた嬉しそうに笑った。

鬼なんて怖くない。
福なんていらない。

お前が傍にいれば、それだけでいいよ。



『…あのね、恵方巻きもあるの。』
『お前…そんな暇があったら薬くらい飲めよ…。』




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