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2011,11,21〜22妄想【円が本気で怒ったら…】


隠していたわけじゃない。
頼りにしてないわけでもない。
ただ、心配をかけたくなかっただけだった。


「...痛みますか?」
「少し、だけ......。」
「冷やしておいたほうがいいですね。タオルを濡らしてくるんで待っていてください。」

そう言って部屋を出ていった円。
背中だけで、彼が静かに怒っているのが分かる。
私はまだ、彼に謝ることすらできていなかった。


数時間前、私は所謂ストーカーという存在に襲われかけた。
店長の都合でバイトが少しだけ早く終わり、私がいつも円が車を駐車する場所まで一人で向かっていた時だった。
迎えにいくまで待っていてください、そう言った彼の言葉を無視して...。

人通りの少ない道を歩いていて、すぐに異変に気付く。
足音が私のものだけではないこと。
そして頭に浮かんだのは、最近家のポストに消印の無い手紙が入っていたという事実。
内容はどれも、私に対する好意を綴ったものだった。

少し怖くなって歩く速度を速めれば、もうひとつの足音もそれに合わせるように速まる。
背筋がぞっとした。

頭を過った恐ろしい仮説は現実の事となる。
突然後ろから羽交い締めにされ、手首を凄い力で掴まれたまま小路に連れ込まれそうになった私。
寸前で助けてくれたのが、私を迎えに来た円だった。


手首にくっきり残った痣を擦る。

(円が来てくれなかったら、私どうなってたのかしら...。)

少し想像するだけで体が震えた。

「お待たせしました、どうぞ。」
「あ......。」

ヒヤリと手首にあてられたタオル。
円の顔を見上げて、思わず息が止まる。
ありがとうと言わなければいけないのに、彼の冷えた瞳を見たら言葉が出なかった。

どう声をかければいいのか分からない。

円が、こんなにも本気で怒りを露にしたのは初めてのことだったから。


「今日はご両親が留守だって言ってましたよね。このままここに泊まって下さい。ゲストルームを用意します。」
「.......円。」

淡々と、ただ事務的に放たれる言葉。
さっき見た冷たい瞳が忘れられなくて、顔を上げることができなかった。

「...ごめ、んなさい......。」
「...............。」

やっと出てきた謝罪の言葉は絞り出す様に掠れていて、自分が泣きそうになっていたことに気付く。
でも、円は何も言ってくれない。

いつもは口を挟む隙も無い程に饒舌な彼だから分かる。
円は私に対して初めて真剣に怒っていた。
恐らくそのことに円も戸惑っているのだろう。
俯く視界に入る彼の腕が、少しだけ震えている。

こんなことになると思わなかった。
ただでさえ心配性な円だから、余計な心配をかけたくなかった。
自分で解決できるだろうなんて軽く考えていた。

「ごめんなさい、円、本当にごめんなさい...!」

ボロボロと涙を溢しながら必死に謝って、彼のシャツをギュッと掴む。
ふわりと鼻を擽ったのはよく知る円の香りで、次の瞬間彼の胸の中に閉じ込められていた。

「...ぼくが、何で怒っているか分かりますか?」

そう私に問い掛けて、抱き締める腕に力を入れる円。
改めて問われると、明確な答えを返せない自分自身がいた。

「警察で話してましたよね、あなた以前からストーカー被害にあっていたって。」
「.........。」

胸の中でこくりと頷く。
そしてまた暫く黙った円が、ゆっくりと体を離した。
恐る恐る顔を上げて、ドクンと鼓動が波打つ。

円の瞳は、怒りを携えてなどいなかった。
その瞳は、苦しい程深い悲しみに揺れていた。

「...ぼくは、あなたの恋人です。撫子さん、ちゃんと解っていますか?ぼくはあなたの恋人なんです...!」

どこか悲鳴のような彼の言葉に、益々涙が溢れ出す。

「あの時、襲われるあなたを見た時、...心臓が止まるかと思いました。」
「ま、...どか。」
「お願いですからぼくを頼って下さい。あなたが気丈な性格であることは重々承知です。でも、お願いです......、二度とこんな思いをさせないでください。」

お願いです、もう一度そう言って、円はまた私を強く抱き締めた。


なんて私は馬鹿だったのだろう。


私はこんなにも彼を傷付けてしまっていたんだ。
誰よりも愛しい彼を。

ごめんなさい、とひとつ謝れば、優しいキスがひとつ降ってくる。
すがるように抱き付いて、私は数えきれないくらい彼に謝った。


その日の夜、私は円に抱き締められたまま眠りにつく。
大事な宝物を守るみたいに私を抱き締める円の寝顔はどこか疲れていて、また涙が零れた。

大切にされている。
心の底からそう感じて、そして私の自己満足な彼への気遣いを恥じた。

もう二度と繰り返さない。
私も円が大切だから。

そう心で誓って、彼の少しだけ冷えた頬にそっと唇を寄せた。





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