2012,5,6妄想【寅撫で壊れた世界の超月】
肌寒さを感じて、とろりとした夢の淵から意識が引き戻された。
無意識に自分の腕をさすると、ふわ、と肩に布団が掛けれられる。
薄く開いた瞳に映ったのは、誰よりも愛おしいひとの横顔。
窓の外をぼんやりと眺めている彼の横顔は、青白い光に照らされて。
夜の闇に溶けてしまいそうな儚い美しさに、ぞくりと背筋が震えた。
(トラ……。)
名前を呼ぼうとしたけれど、声にはなっていなくて。
代わりに光を受けてキラキラと輝いた赤髪をそっと撫でた。
「ん、ああ…起こしちまったか?」
窓から私に向けられた視線と柔らかな声に、自然と私の頬も緩む。
「……何を見ていたの?」
そう問えば、トラは視線をまた窓の外に戻した。
「お嬢も見てみろよ、ホラ…月がすげえぞ。」
静かな声で私を誘う彼の瞳の中に映っていた、純白の月。
透き通るような青と、どこか神々しく輝いた白。
私は思わず息をするのも忘れてその幻想的なコントラストに魅入った。
溜息が零れる。
「…綺麗……。」
「だろ?いつも空と同じで赤い色してんのにな…ってお前、月見てねえじゃん。」
「見てるわ。トラの目の中に映ってるもの…。」
私の言葉に、トラは一瞬目を瞬かせて。
そしてふわりと笑った。
「そうだな…お嬢、お前はオレだけ見てればいいよ……。」
妖艶な笑みを見せたまま、ゆっくりと近づいてくるトラ。
唇が触れる直前、彼の瞳に映っているのは私の瞳だけで。
それが、何故か泣きたくなるくらい嬉しかった。
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