2012,3,5妄想【りったんのなんでもないドラマCD】
理一郎『毎日が記念日』あらすじ↓
婚約後、同居に向けて買い物をする二人。
珍しく浮かれている撫子を少し遠くで見つめながら、理一郎は甘い未来に思いを馳せる。
ふと目についた、きらきらと輝くクリスタル細工のアクセサリー。
(そういえばあいつに、まともにプレゼント贈ることなんて、あまりなかったな…。)
何でもない日にプレゼントを贈るなんておかしい、そう思いながらも、理一郎は撫子にそれを贈りたいと思った。
何でもない日だけれど。
何の記念日でも無いけれど。
理由なんて無くてもいい。
一番大事なお前との、何でもない日の記念日。
今更照れくさいとか。
何の記念日でも無いのにとか。
私の頭の中にはいつも通りそんな可愛くない言葉ばかりが浮かぶ。
けれど浮かんだ台詞が声にならないのは、理一郎の柔らかな瞳のせい。
渡された包みを開いた私の様子をどこか不安そうに、そしてやたら嬉しそうに見ているものだから。
(………は、恥ずかしい…。)
手のひらの中、角度を変える度にキラリと光を反射させるクリスタル。
理一郎の視線に耐えながら私は懸命に言葉を探す。
嬉しすぎて言葉が出てこないなんて、初めての経験だった。
「気に入らなかったか…?」
「え……?」
「お前女の割にはアクセサリーとかあんまり着けないし、可愛いげないお前でもひとつくらいそういうキラキラしたものがあってもいいんじゃないかと思ったんだが。」
(……酷い。)
ぶっきら棒で憎たらしい言い方なのに、私の頬は緩んでしまう。
いつもより口数の多い理一郎。
瞳を泳がせて口を尖らすその姿が、愛しくて仕方ないから。
「……嬉しいわ。」
そうぽつりと呟けば、彼は一瞬息を飲む。
何か言いたそうに口を開いて、たぶんいつも通りの憎まれ口を叩こうとした幼馴染み。
しかしその口を閉じてほんの少し顔を赤くして、そうか、と一言だけ呟いた。
「…着けてみてもいい?」
「お前にあげたんだからいいに決まってるだろ…。」
「ふふ。……………どう、かな?」
「…うん。……………………よく、似合う……。」
静かに、言葉少なに交わされる会話が心地好い。
とても愛しいものを見るような藍色の瞳の中には、私が映っていて。
きっと私の瞳に映るのも同じだと思った。
ゆっくりと近付く距離。
柔らかく重なった唇に、胸が震える。
彼の温かい指がさらりと私の髪の毛を撫でて、そのまま首元で揺れるクリスタルをなぞった。
一番大切なあなたがくれた、何でもない日の記念日。
prev / next