2012,2,15【円撫バレンタインSS sweetestプロローグ】
『じゃ、また連絡しますから。』
「ええ、…体、壊さないようにね。」
『…珍しくしおらしいですね。ああ、もしかして淋しいんですか?』
「……何よ、円こそどうなのよ。」
『は?』
「もう二週間会ってないわ、実は淋しいんでしょ?」
『別に。』
さらりと即答する円。
それが本心じゃないことなんて当然知っているから、少しだけ可笑しかった。
国際電話のせいなのか、向こうのホテルの電話機のせいなのか。
小さく入る雑音と、少しだけ遠い円の声。
それだけでも愛しくて。
そして切なかった。
(淋しいんですか、なんて…。円って本当に意地が悪いわ。)
淋しいなんて言えない。
会いたいなんて、もっと言えない。
だから私は、
「…円が帰国したら、またこの前のパスタ作ってくれる?」
なんて彼にねだってみる。
一瞬の間の後、ふ、と柔らかい笑い声がして、
『あなたって人は本当に……。いいですよ、いくらでも作ります。その代わりお礼はしっかり頂きますからね。』
耳に届いた甘い意地悪。
淋しいなんて言わない。
会いたいなんて言わないから。
だから。
早く。
その意地悪を傍で聞きたい。
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