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2012,2,11妄想【りったんの切ないバレンタイン】


ずっと一緒だった。
いつも隣にいた。

どんな時も。


「理一郎!良かった、随分探したのよ。」

放課後、生徒達も疎らになった校内。
長い髪を揺らして駆け寄って来たのは、家が隣同士の幼馴染み。

息を整えながら、もう先に帰ったかと思った、と安堵して微笑んだこいつとは、中等部に上がってから二人で帰ることも少なくなっていた。

「…何だよ撫子。今日何か約束してたか?」
「約束はしてないけど、これを渡したかったの。」

はい、と差し出されたのは、薄いブルーのリボンで飾られた白い紙箱。
正直な話、こいつが俺に何の用があって来たのかなんてはじめから分かっていた。

今日はバレンタインだ。

「……わざわざいいのに。」
「もう、毎年のことだけれど本当に可愛くないわね。」

呆れた様に溜め息を吐いた撫子。
その手に持つ袋の中には、同じ箱がもうひとつ入っている。

全く同じラッピングのそれが、最後のひとつのそれが、誰のものなのかを俺は知っていた。

「……生徒会、今日は壮行会の打ち合わせだって言ってたぞ。」
「え…、な、何よいきなり…。」

平然を装っているつもりでも、赤く染まった顔は隠しきれずに。
意外と感情が表に出やすい幼馴染みに、頭の中で苦笑した。

「期末も近いしな。そんなに長くはかからないんじゃないか?」
「だから、何も言ってないじゃない…!」

不機嫌そうに視線を反らした撫子。
こいつの気持ちに気付いたのは、いつだっただろうか。

あの可笑しな課題をしている頃から、薄々感じていたのだとは思う。
あいつが俺以外の奴の家に遊びに行くなんてこと無かったし。
シンプルだった携帯にいつの間にか飾られていたストラップを、本当に大切そうにしていたから。

「えっと…、私は図書室に寄ってから帰るから。じゃあね、理一郎。」

上気した頬を押さえて、踵を返した撫子。
さらりと風を切った髪からは、甘い香りがした。

軋んだ胸。
引き留めたいと延びそうになる腕。


お前は、なんで俺を見てくれなかったのだろう。
誰よりも一番傍にいたのは、俺だったのに。


「……撫子っ…。」

思わず呼び止めれば、ゆっくりと振り向いた。
たった一人の幼馴染み。

なあに?と柔らかく微笑んだお前は、例え何があっても、何年経っても、俺にとって唯一無二の存在だから。

「………これ、ありがとうな。」

貰った箱を見せて、そう告げる。
俺の言葉がそんなにも予想外だったのか、暫く目を瞬かせた撫子。

そして、真冬に吹いた春風みたいに、ふわりと笑った。


ずっと一緒だったから。
いつも隣にいたから。

望んだ形ではなくても、俺はお前の幼馴染みだから。
それは、それだけはこれからも変わる事は無い。

どんな時も。





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