2011,10,31妄想【円と二回目】
今日は久しぶりに彼のお家でゆっくりしていた。
円がビーズアクセサリーのデザイン画を私に見せてくれて、私は自分の意見を言う。
何の知識もない自分の意見なんて取り入れていいのだろうか、と戸惑う私に、円は「どうせ作るならあなた好みのものの方がいいですから。」なんてサラリと言って見せる。
少しだけ赤くなる頬を誤魔化すように、夕日が射す窓に目をやった。
「…随分と陽が落ちるのが早くなったわね。」
「そうですね。もう10月も終わりですからね。
……撫子さん、明日は大学でしたっけ?」
「え、あ、…ええ。」
「……じゃああまり遅くならない方がいいですよね。そろそろ送って―――」
「っでも、授業午後からだから…あの、そんなに急がなくて平気………。」
思ったよりも大きな声が出たことに自分で驚き、最後の方はもごもごと口ごもってしまう。
さっきよりもずっと顔が赤くなっていくのが分かった。
もっと一緒にいたいとか、まだ帰りたくないとか、そんなことが上手に言えればといつも自己嫌悪に陥る。
円の前で素直になるのは何よりも恥ずかしくて難しい。
「……………。」
「……………。」
(……どうして黙ってるのよ。)
何も言わない円にじわりと不安が広がっていく。
「…え、と。円の都合が悪いなら、もう帰るけれど……。」
「別にぼくの都合は大丈夫です。明日は夕方に打ち合わせが入っているだけですから。」
「そ、そう?」
「はい。」
怒ってるの?
そう思ってしまうくらい円の様子は至極いつも通りだった。
何かを期待しているのは、私だけなのだろうか。
そんな思いが頭を過って、ぐっと気分が落ち込んでしまう。
円と初めて身体を繋げてから、もう1ヶ月半が経った。
初めての経験は想像もしていなかった程の痛みだったけれど、それ以上に溢れるような幸せを感じた。
今までで一番円を近くに感じて、心の芯から通じ合ったようで本当に嬉しかった。
お互いずっと忙しくて、全然ゆっくり会う機会もなくて、だから今日をとても楽しみにしていたのに…。
(円…、私としたいって思わないのかしら……。
さっきだって普通に帰そうとするし。)
考えているうちに言いようもない悲しさに襲われて、鼻の奥がツンと痛くなる。
俯いたままの私を変に思った円が、私の顔を覗き込むようにした。
「…撫子さん?どうかしましたか?」
「…………円。」
素直になるって、どうしてこんなに難しいのだろう。
たぶん私がここで円に素直な気持ちを言えば、きっと受けとめてくれると思う。
分かっているけれど、やっぱりこんな気持ちを言葉にするのは躊躇ってしまう。
どうしていいか分からずに、彼の紫水晶色の瞳をじっと見つめた。
「……そんな顔されると、抑えが効かないんですが…。」
「………………はい?」
円の言葉の意味が分からずポカンとしてしまう。
そんな私からちょっとだけ目を逸らした彼の顔は、心なしか赤く見えた。
「円…?」
「…なんですか。」
「どうして、抑えるの?…必要ないと思うのだけれど……。」
「………………。」
(だからどうして黙るの??)
それはもうもの凄く勇気を出したのだから、早く何か言ってほしいのに。
「………がっついてると思われたくなかったんで。」
たっぷりと間を取った円がぽつりと小さく零した言葉。
一瞬考えて、つい笑ってしまった。
「…なーに笑ってんですか。」
「ふふ、ごめんなさい。…ふ、あはは。」
「いい度胸ですね、撫子さん。」
「え、っきゃ!」
ふわりと体が浮かび上がったと思ったら、背中に感じたベッドのスプリング。
突然のことに何の抵抗もできずに組み敷かれてしまい、身体がカッと熱くなる。
たぶん、突然じゃなくたって抵抗なんてしなかっただろうけど。
「ま、ど…っん……ふ、…。」
柔らかく包まれるように唇に吸いつかれて、ぞくりと背中に何かが走る。
そっと離れた唇が名残惜しくてうっすらと目を開ければ、そこには怖いくらいに色っぽくて熱の籠もった視線。
「…今日は泊まって行けるんですよね?」
「………ふっ…。」
返事なんか聞く気もないくせに。
円の意地悪な口が私のそれを塞ぐ。
心の中を甘くかき混ぜられるようなキスに、私はゆっくりと思考を手放した。
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