2011,12,27妄想【円撫で壊れた世界のクリスマス】
「円!ちょっと来て!!」
バン、と勢いよく開いたドアから撫子さんが叫んだ。
「っな、どうしたんですか!?」
「いいから来て!」
焦ったように息を切らせる彼女に、読んでいた資料を投げ出して駆け寄る。
ぼくの手を握って外へと出た彼女が、見て、と空を指差した。
灰色の空をフワリと舞う、白い雪。
「……雪、ですね。それが何か?」
「何かって、今日は25日なのよ??」
ホワイトX'masじゃない。
そう言って嬉しそうに笑う撫子さんを見て、思わず脱力した。
こんな壊れた世界でX'masも何も無いでしょ。
零れそうになった言葉は喉の奥で止まる。
まるで宝物でも眺めるようなキラキラした翡翠色の目に、ぼくの嫌味も文句も全て消えてしまった。
このひとは、どうしてこんなにも真っ白なのだろう。
突然こんな世界に連れて来られ、歩むべき10年間を理不尽に奪われ、強制的に大人にならなければいけなくて。
本来なら狂ってしまってもおかしくは無い、むしろ狂ってしまうのが普通だと思えるような経験をしてきたというのに。
それでもこのひとは、ぼくの生きるこの壊れた世界を。
ぼくと生きるこの世界を愛しいと言う。
「昨日までは秋みたいな気候だったのに今日に限って雪だなんて、まるで奇跡みたいじゃない?」
冷えて真っ赤になった手の平の上でトロリと形を無くす雪の結晶を、いつまでも見つめている彼女。
「あなたはまたそんな薄着で…風邪引くって言ってんでしょ?」
細い体を抱き寄せて、自分の胸の中に閉じ込める。
くすぐったい、と口では文句を言いながらも抵抗する気は無いようで。
抱く腕に力を込めた。
奇跡なんて、もうとっくに起こっている。
あなたがぼくの腕の中にいる。
それこそが奇跡としか言い表せないから。
色の無い風景が柔らかな白で塗られていく。
まるで、ぼくとあなたのようだと思った。
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