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2011,12,14妄想【円に慰めてもらう】


命を預かる仕事だから、ほんの少しのミスすら許されない。
しかし、ミスをしてしまったならそれをいつまでも引きずってはいけない。
落ち込んで気が漫ろになれば、それがまた新たなミスに繋がってしまうから。

「円、それって冬の新作?凄く色が綺麗ね。また雑誌に大きく取り上げられるんでしょう?楽しみだわ。」
「.........何かあったんですか?」
「え...?」
「え、って...。へこんでるでしょ、あなた。

「................。」

いつも不思議に思う。
どんなに普通に接しているつもりでも、何故か円にはばれてしまうのだ。

「...大したことじゃないわ。研修中に少し手順を間違えてしまっただけ。」

気付かれてしまえば最早隠し通せないことが分かっているから、私も正直に言う。
言葉にすると益々気が沈んだ。

大したことじゃないなんて、そんなわけない。
少しのミスが人ひとりの命を左右する。
私が身を置いているのはそういう場所なのだから。

深く溜め息をひとつだけ吐いて、気持ちを切り換えるように顔を上げる。

「そんなことより、そのネックレス少し着けてみてもいいかしら?」
「これはあなた用じゃないんで駄目です。」
「え、ちょっと試着してみるくらいいいじゃない。」
「駄目です。」

きっぱりとそう言い切る円に、せっかく奮い立たせた元気も呆気なく消えてしまった。

(何なのよ...。)

円が気まぐれなのはいつものことだけれど、今日は通常運転の彼の冷たさが胸に刺さる。
ツンと鼻の奥が痛んだ。

泣きたくなんかなくて、必死で瞬きを堪える。
前髪を直す振りをして目元を隠せば、視界が塞がって余計泣きそうになった。

「...まずは落ち込んだらいいでしょ。」

え、と思う間もなく、フワリと耳元に落とされた柔らかな声と体に伝える重み。
円の大きな体が私の体をすっぽりと覆って、その腕に少しだけ力が籠められた。

「あなたはすぐ我慢してしまうから苦しいんですよ。まずは落ち込んで、それからじゃないと立ち直ることもできないでしょ?」

波紋みたいに静かに心に広がる円の優しさ。
涙が溢れてしまったことを悟られたく無かったけれど、肩が震えていたからきっと無理だったと思う。

小さく揺れる体を円はより強く抱き締めてくれるから、また涙が込み上げた。

「......苦しいわ。」

全然苦しくなんてなかったのに照れ隠しにそう言えば。

「はいはい...。」

と、 彼はもっときつく腕を回した。


それから暫くの間、円は何も言わずに私を抱き締めていてくれて。
時々、耳や首筋に降るキスに私がうっとり酔いしれた頃、そっと体を離した円。

真っ赤になってしまっただろう目を見られるのが恥ずかしくて俯くと、ふと手を取られた。

そのまま目の前に持ってこられた自分の左手が視界に入って、心臓がトクンと音を立てる。

「こ、れ......。」
「これはあなた用です。」

いつの間にはめられていたのか、小指を飾るシルバーの華奢なリング。
淡いピンクの石が埋め込まれた、とても円らしいシンプルで優しい色合いのピンキーリングだった。

「シルバーは基本的に作らないんですけどね。ま、たまにはと思いまして。」
「...これ、くれるの......?」
「人の話し聞いてました?あなた用だって言ってんでしょ?」

サラリとすくように私の髪の毛を撫でた円。

「...........嬉しい。」

胸がいっぱい過ぎて、そんな言葉しか出てこなかった私に。

「そうですか。」

と、彼は酷く穏やかな返事をくれた。


現金だな、と自分で思う。
もう滅入っていた気持ちは溶けて、心の中は驚くくらい軽くなっていた。

小指のリングにそっと指を這わせて、私は円に笑顔を向けた。

ありがとう、と心からの一言を添えて。





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