キスをしよう
「んっ……ふ、…っ……。」
嵐の中にいるみたいな円のキス。
目が回って、頭が痺れて、何も考えられなくなって。
円の上着を掴む手から力が抜けてしまう頃、やっと呼吸を許してもらえる。
「…っは、…はぁ…はぁ……。」
「大丈夫ですか?」
耳元で至極冷静に落とされた声に、かっと血が昇った。
「…っ大丈夫じゃないわよ!突然こういうキスをするのはやめて!!」
触れるようなキスでさえ私はまだ狼狽えてしまうのに、円は時々乱暴なくらいの激しさで私を翻弄する。
奪う、という単語がぴったりな彼のキスに戸惑う私を、きっと彼は楽しんでいるのだろう。
「……こういうキスってどういうキスです?」
「―――っ!」
だからこんな意地の悪い質問をするのだ。
「分かってるくせにわざわざ聞かないで。」
「…舌を入れるくらいいいじゃないですか、今更でしょ。」
「だからわざわざ言わないでってば!」
本当に性格が悪い。
「撫子さんはぼくとキスするのが嫌なんですか?」
「そ、そうじゃないけど……。いきなりあんなキスされるのは、ちょっと…。」
「ちょっと、何です?結局嫌ってことですよね。ていうか、いきなりはやめろとか言いますけど舌入れますねって断ればいいってもんでもないでしょ?」
「う………。」
矢継ぎ早に言われてしまうと言葉が出てこない。
別に円とのキスが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しい、のだと思う。
認めるのはとんでもなく恥ずかしいけれど、円のことが好きなのだからその気持ちは自然なものだろう。
けれど、深すぎるキスはまだどうしたって焦ってしまうのだ。
「はぁ…キスくらいで騒がないでくださいよ、子供じゃないんですから。」
「ーーーなっ…!」
ワザとらしい溜息と共に馬鹿にするような言い方をされ、流石にむっとする。
「円と違って私は慣れてないのよ!」
勢いで思わず出てしまった言葉。
私の言葉に一瞬円が辛そうな表情を見せて、はっと我に返った。
「あ…え、と………。」
「…わかりました、もうしませんので安心してください。すみませんでした。」
「……っ…。」
そう言って部屋を出て行ってしまった円の背中をただ目で追う。
すみませんでした、なんて普段よっぽどのことが無い限り謝らないくせに。
「……だって、…あんな言い方するから…。」
ぽつりとこぼした言葉はただ寂しく床に落ちる。
傷付けてしまった。
円を。
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