どれくらいそうしていただろうか。
唇が離れてた頃にはもう頭の中はとろとろに溶けてしまっていて。
「はぁ……。」
熱い吐息が零れて、視点の定まらないまま円を見上げる。
赤い舌をちらりと出した彼は、どこか余裕あり気な眼差しで私を見下ろしていた。
一気に血圧が上がる。
「っ、だからどうして円はそんなに余裕たっぷりなのよ!!」
「別に余裕があるわけじゃありませんよ。というかこの状態で余裕なんてあるわけないでしょ。」
「だってニヤニヤしてるじゃない!」
「ニヤニヤって…、仕方ないでしょあなたの顔が可愛すぎるんです。」
しれ、と言い放つ円の指が私の首筋を撫で上げて、その感覚に思わず息を飲んだ。
流れるように頬に添えられた手。
甘い予感に目を伏せようとして、次の瞬間円の指が私の頬をぶにっと掴んだ。
「ひょっほ!はにふるのほ!!(ちょっと!何するのよ!!)」
「撫子さん、誰かに入れ知恵されたでしょう。」
じっと見据えられて、言葉に詰まってしまった私に円は言葉を続ける。
「あなたが自分からキスするなんてどう考えてもおかしいですよね、央ですか、央ですね。」
分かっているのに問い詰める必要があるのだろうか。
肯定も否定もできずにいる私に、円はまた小さなキスを落とす。
(こんな変な顔してる時にっ……!!)
「まあ結果的にぼくとしては大変満足だったのでいいですけど。」
「なっ……っ…!」
文句を言ってやろうとしたけれど、あんまりにも円が楽しそうに微笑んだものだから。
(……まったくもう。)
なんて小さな溜息と共に結局許してしまうのだ。
円とのキスはやっぱり慣れない。
何度してもドキドキしてしまうし、耐えられないくらい恥ずかしい。
それでもまた円とキスしたいと思うから本当に不思議だ。
「いつかは慣れる時が来るのかしら…。」
そう呟いてみて、そんな日が来ることは無いだろうと一人で納得したりして。
だって好きな人とするキスはいつだって特別なのだから。
「あの子相手に我慢するのは大変だねぇ、円。」
「…ほっといてください。」