手を繋いで歩いて数分、駐車場についた円が助手席のドアを開ける。
「どうぞ。」
「え?上着取りに来ただけじゃないの?」
私が車に乗る必要があるのだろうか、そう思って首を傾げる。
お待たせしてしまうのもあれなので、と言う円の言葉の意味はよく分からなかったが、にこ、と微笑まれてしまうと弱い。
不思議に感じながらも促されるがままに車に乗り込んだ。
助手席のドアが閉まって、円も運転席から乗ってくる。
その一連の動きをただ目で追っていると、バタンとドアが閉まった途端に視界がぶれた。
「―――なっ!…んぅ……。」
何が起こったのか分からないまま強引に唇を塞がれて、ぬるりと滑り込んできた円の舌。
私の口内を好き勝手に動く舌に翻弄されながら、助手席のシートが倒されたのだと気付く頃にはもう身体に力が入らなかった。
は、とお互いの吐息が零れて唇が離れる。
「……突然何するのよ…。」
文句を言う声は自分でも呆れる程甘い。
突然で驚いたけれど、こうして円に求められるのは嫌いじゃないのだ。
「キスしたかったんで。」
事も無げにそう言って、円は私の頬、耳、首筋へと小さくキスを落としていく。
だから私を車に乗せたのか、なんて納得しつつ軽く円の身体を押す。
「ん…、円。映画が始まっちゃうわ…。」
「映画なんて観ませんよ。」
「え?」
「今日はこのままぼくの家へ帰ります。」
「………え??」
耳を疑うような言葉に、今度こそ円の身体を強く押し戻した。
「だ、だって上着取りにきたんじゃ……。」
「そんなの嘘に決まってんでしょ。こんな恰好したぷよさんを外に出せるわけないじゃないですか。」
「は!?」
いつも通りの飄々とした態度でさらり言い放った円。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
要するにあの笑顔や優しい態度は私を油断させる為の演技だったということ。
まんまと私は騙されたのだ。
「ひど――っ…ふ……。」
酷い、そう罵ってやろうと思ったのに再び塞がれた唇は、言葉の続きを紡ぐことができない。
円のキスはすぐに私の思考をとろかしてしまうからずるいと思う。
狭い車内にちゅ、と濡れた響いて。
頭の芯はどんどん痺れていって。
「ああ、可愛いって言ったのは嘘じゃないですよ。」
「え……、っぁ…!」
する、と温度の低い指がスカートの裾から潜り込む。
身体を震わせた私を見下ろす円が妖艶に笑う。
「いいですね、これ。ぜひまた履いてください。」
ただしぼくの前でだけ、ね。
囁くように掠れた声が、キスと共に唇から注ぎ込まれた。
『彼は私を見てどんな反応をするだろうか。』
答えは……。
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