ぷよちん | ナノ


円に手を引かれて歩く休日の繁華街。
いつもならこの少し温度の低い大きな手に安心感を覚えて、とても幸せな気分になるところだ。
しかし今私の頭の中は悶々としている。

この恰好どうかしら、とか。
どうして何も言わないの、とか。
そんな風に聞くのも恥ずかしいし、何よりちょっと悔しい。
だってどう考えても私の服装が普段仕様で無いことに、円は気が付いているはずなのだから。

(何なのよ……。)

腑に落ちない気持ちを抱えながら歩いていて、ふと違和感を覚える。

「円?どこに向かってるの?今日は映画を見る予定だったわよね。」

周りを見回して、ようやく駅前の映画館を過ぎてしまっていることを知った。
不思議に思って尋ねた私に、首から上だけ振り返った円。

「車の中に上着を置いてきてしまったので、一旦駐車場に戻ります。」
「あ、そうなの。……円、寒いの?」

本日の天気は快晴。
少し風は吹いているものの、温かな南風で春らしい陽気だ。
薄手のセーターを着ている円は、今の気候に丁度いいように思える。

「映画館って冷えるでしょ。ぼくは別に平気ですけどあなたそれじゃ寒いんじゃないですか?」

そう言った円の視線が私の足元に落とされた。

「あ……。」

途端にかあっと顔に血液が集まる。
何のリアクションも無いことが不満だったけれど、実際触れられるとどう反応したらいいか分からない。

「え、と……変、かしら?」

結局出てきたのはそんな台詞だけで。
ますます顔が熱くなってしまった私に、円が小さく笑った。
でもそれは私をからかうようなものでは無くて、とても優しい微笑みで。

「いいえ、可愛いですよ。ぷよさんによく似合ってると思います。」
「…………っ!?」

本当に円が言ったのだろうか、そう疑わずにはいられない言葉が耳に届く。
頭で理解するまでに恐らく数秒のタイムラグがあっただろう。

あ、とかう、とか。金魚みたいに口をパクパクさせる私を見て、円はまた優しく笑って。
行きましょう、と引かれる手も本当に優しい。

(…ミニスカート、履いてきて良かった…!)

彼から可愛いだなんて、あんな素直に言ってもらえるだなんて思ってもみなかったから。
胸の中がほくほくと温まる感覚に、頬が緩むのを抑えられなかった。


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