人でごった返す駅前。
そんな人混みの中でも、円は一際目立っていた。
壁に寄りかかって本を読んでいるだけなのに、悔しいくらいに様になっていて。
周りの女の子達が円をちらちら見ているのが分かった。
周りがざわつくそんな中でも動じることのない円が、なんだかちょっと可笑しくて。
私は小さく笑ってしまった。
声をかける前に、店のガラスに映った自分の姿をもう一度確認する。
首元には円からもらったネックレスと、薄い緑のカーディガン。
踵にリボンのついたショートブーツ。
そして、膝上20センチ以上はあるだろう、細かいプリーツの白いミニスカート。
今朝から何度も確認しているというのに、まだ見慣れない自分の恰好。
今日こんな服装で来た理由は、数日前友人と買い物に行った時のことだった。
『九楼さんっていつもロングスカートよね。もう春なんだし、たまにはミニとかどう?』
『ミニ…ね。私にはあんまり合わないんじゃないかしら。』
『そう?足綺麗だし似合うと思うけど。あ、もしかして彼が嫌がるとか?』
『え?彼がって?』
『ほら、彼女の服装にうるさい彼氏もいるじゃない。九楼さんの彼ってそういうタイプ?』
『…どう、かしら。服装について何も言われたことは無いけれど…。』
そんなやりとりがあって、改めて円のことを考えてみた。
新しい服を着れば一応それなりに褒めてはくれるけど、特別円の好みを意識したことは無い。
というか、私は円の好みを知らなかった。
(もしかしたらミニスカートとか好きだったりするのかしら。)
円と恋人になってもう何年も経つのに、今更だとは思う。
けれどやはり知りたい。
彼は私を見てどんな反応をするだろうか。
それは小さな好奇心だった。
「お、お待たせ。円。」
私の声に顔を上げた円。
本を読んでいたからだろう、眼鏡をかけているから普段細めている眼が開いていて。
その薄紫の瞳が私の姿を捕えた時、僅かに見開かれた気がした。
パタン、と本を閉じた円の視線がちりちりと肌に刺さる。
たぶん私の顔は真っ赤だろう、とにかく恥ずかしくて今すぐ逃げ出してしまいたい。
(早く何か言って…!)
沈黙に耐えられなくなった時、円が私の手をすっと取った。
思わず体がびくりと跳ねる。
「じゃ、行きましょうか。」
「……え?」
「人が多いんで手ぇ繋ぎますけど、嫌ですか?」
「あ、い、嫌なわけないわ…!」
しどろもどろになってしまった私に、ふ、と柔らかい笑顔を見せた円。
どき、と鼓動を速めた私の手を引いて彼は歩き出す。
(……………。)
『彼は私を見てどんな反応をするだろうか。』
答えは、無反応だった。
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