なつめ様 | ナノ

Back rank mate


「こんにちはー。」

ノックと同時に開いた扉。
ノックする意味あるのかしら、そう思いつつももう慣れてしまっていた。

「また読書ですかー、あなたは本当に本が好きなんですねー。」

ベッドに座る私を見たレインがいつも通りの間延びした声でそう言って。
よお、と軽い挨拶をする左手のカエルもいつも通り。

ひとつだけ違うのは、私の目の前に差し出された右手の上の小さな箱だった。
あまりにも近すぎる箱の位置に、思わず目を瞬かせてしまう。

「どうぞー。」
「どうぞって…、これなあに?」
「ケーキです。小さいですけどあなたひとりで食べるなら丁度いいでしょー?」
「ケーキ…?どうしてケーキなんて…。」
「どうしてって、誕生日だから…、じゃないんですか?」

(ないんですか?って私に聞かれても。)

確かに今日は私の誕生日で、ケーキは誕生日にはつきものだ。
しかし、私はレインに自分の誕生日を教えた覚えがない。
自分でも今初めて思い出したというのに。

「あはは、不思議そうな顔してますねー。」

悪戯っこみたいな笑顔を見せたレインが、ひょいっと私の顔を覗き込む。
いつのまにか隣に座っていた彼との距離は焦ってしまうほど近くて。
間近に迫った桜色の瞳に、心臓が小さく跳ねた。

「あなたの誕生日くらい知ってますよ。まーぶっちゃけ大抵のことなら調べてありますからー。」
「情報収集、身辺調査だ!探偵みたいで面白かったよな!」
「ちょっとカエルくん、ボクはあくまで仕事をしただけですからねー。」
「………そう。」

もういちいち驚いたり怒ったりするのも馬鹿らしい。

「要するにこれは私へのプレゼントなわけね?何だかちょっと怖いけれど、嬉しいわ。ありがとう。」

レインからケーキの入った箱を受け取りながら、ああまたやってしまった、と自己嫌悪に陥る。
どうして私はお礼ひとつも可愛く言えないのだろうか。

本当はとても嬉しいのに。

この世界に来てからの時間は瞬く間に過ぎていくような、酷く遅いような気がして。
誕生日なんてすっかり忘れていたから。

いえいえー、とふんわり笑ったレイン。
いつもどこか含みのある笑顔しか見せない彼の、時折見せるこんな頬笑が好きだった。

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