少しだけ振り返った私と、レインの唇はあと数センチで触れる位置にあって。
この先に訪れるだろう予感に、ぎゅっと目を閉じる。
しかし数秒の沈黙の後、私を包む熱が静かに離れた。
「…鷹斗くんがあなたのお祝いするんだって、それはもう仕事そっちのけではりきってましたよー。」
「………。」
緩慢な動作でレインの背中を視線だけで追えば、もうその左手にはいつもの友人がいて。
高鳴っていたはずの胸が、切り付けられたみたいに痛んだ。
(…馬鹿みたいだわ。)
あからさまに落胆している自分自身に、心の中で嘲笑する。
気付きたくなんてなかった。
知りたくなんてなかった。
否、本当はもうとっくに分かっていたのかもしれない。
私は。
レインが。
零れてしまった紅茶の葉を見つめたまま、その場から一歩も動けない私の頭を、ふわりと撫でたレイン。
膿んだみたいに胸がじくじく痛むから、もう優しくしないでほしいのに。
「Happy birthday,Queen…。」
ちゅ、と音を立てて頭へ落とされたキスと共に。
まるで脳に直接囁かれたみたいな祝いの台詞。
私をクイーンと呼ぶことが、レインの気持ちを全て物語っている気がした。
いくら近づいたところで、触れ合うことは無い。
私たちの想いが、重なることは無い。
だから、きっと気のせいなのだろうと思った。
耳元に残る彼の声が酷く切なくて、苦しいくらい甘く感じるのは。
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