なつめ様 | ナノ


腕を掴まれて、紅茶葉の缶がガシャンと大きな音を立てて落ちる。

「…証明してみせましょうかー?ボクが大人だってこと…。」

耳元で落とされた、普段のそれより少しだけ低い声。
背筋がぞくりと震えて、やっと状況を飲み込む。

今さっきまでベッドに座っていたはずのレインは私の真後ろにいて。
いつも左手に居座る彼の友人は外されていて。
私は、レインに背中から抱き込まれるように両腕を掴まれていた。

かぁ、と体温が上がる。

「っ、レイ、ン……!」
「髪の毛、柔らかいですねー。凄くいい匂いですし。」
「―――っ…!」

首筋にレインの息がかかって、身体がビクリと跳ねた。
背はほとんど変わらないのに、全然筋肉が無さそうな彼なのに。
握られた腕が、押さえつけられた体が全然びくともしない。

「そういえばあなたも今日でまたひとつ大人になったんでしたね、…なつめくん。」
「ふっ……。」

たぶん唇は触れてないのだと思う。
けれど間近で囁かれる声に、髪の毛が彼の吐息で揺れて。
ゆっくりと頭から肩まで輪郭をなぞるように。
酷く丁寧にキスをされてるみたいな錯覚に陥る。

ぞくぞくと背筋を伝う痺れに、抗おうという気がおきないのは一体どうしてなのだろう。


動けない。一歩も。

(……本当に?)

痺れていく頭の中で自分に問う。

「…ボクに触れられるのは嫌、ですかー?」
「……………。」

そんなこと聞かないでほしい。
私の腕に力が籠っていないことなんて、とっくに分かっているはずなのに。

動けないんじゃない。
私はきっと、この先を期待している。

「レイン………。」

ぽつりと催促のように彼の名を呼んだ声は、自分でも驚く程甘かった。




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