なつめ様 | ナノ


小さなリボンのついた箱を開けてみて、思わずわぁ、と感嘆の声を上げてしまう。
手のひらに乗るサイズのケーキには、白い生クリームと真っ赤なイチゴが飾られて。
チョコのペンでちょこんと描かれたウサギの絵が、とても可愛らしかった。

「すごく可愛い…!これ、どうしたの??」
「ボクが作りました、おかげで仕事が溜まっちゃいましたけどねー。」
「………え???」

自分の耳を疑う。
この世界にケーキ屋があるとは思わなかったが、これをレインが作っただなんて考えもしなかった。
確かにこのウサギはレインのセンスだけれど、彼が料理をしている姿をとてもじゃないが想像できない。

(しかもこんなに美味しそうなお菓子をレインが……?)

「ちょっとー、絶句して驚くことないじゃないですか、傷ついちゃいましたよー。」

瞠目していた私に対して、レインは大袈裟に落ち込んで見せた。

「あ、ご、ごめんなさい。レインがお料理するってことがちょっと意外で…。」
「まあこの歳ですからねー、レシピさえあれば料理くらいできますよー。」
「コイツが料理とか気持ちわりぃよな、何入ってるか分かりゃしねーよ。」
「カエルくんは失礼なこと言わないでくださいねー。」

飽きもせずにじゃれ合う一人と一匹に苦笑しながら、改めて思う。
こんなに無邪気な容姿だけれど、彼は鷹斗や円よりも年上なのだ。

「その見た目で25歳だなんて、つくづく詐欺よね…。」
「ええー、犯罪者扱いですか?」
「だって見えないもの。」

酷いですー、とがっくり項垂れるレインが可笑しくて、つい噴出してしまった。

「ふっ…あはは。」
「………………。」

ごめんなさい、なんて笑いながら謝って。
せっかくだからこのケーキはレインと食べようと、部屋に置かれたポットの電源を入れに歩く。
紅茶の葉を選びながら、どこか間の抜けたケーキのウサギを思い出して、また頬が緩んだ。


「おい、オマ―――。」

(…?)

背中越しに聞こえてきた不自然な途切れ方をした声に、不思議に思って首だけ振り返る。

視界いっぱいに入った薄緑。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。

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