ふたり。手を繋いで。
「…おい、一体これは何の騒ぎだ……?」
玄関を開ける前から嫌な予感はしていた。
お嬢が来るには早すぎる時間だと思ったし、部屋の中では何やら不穏な破壊音がしていたから。
「あ、トラ君おかえりー!」
「おお、寅之助、やっと帰ったか。待っておったぞ。」
「トラさん、大きいお皿はどこに仕舞ってありますか?」
「お疲れ様、西園寺君。ごめんね、勝手にお邪魔するのは気が引けたんだけど…。」
「鷹斗、お前一番ノリノリだっただろう。」
今日だけは残業したくないからと、朝4時起きで仕事場に向かって、始めからフルピッチで作業進めて、上司に睨まれないよう人の仕事まで手伝って。
こっ恥ずかしい思いをしながら、あいつが好きだって言ってた女客だらけのカフェでケーキを買って。
ようやく家に着いてみれば思わぬ総動員の出迎え。
どっと疲れが襲った。
「お前ら…、どうやって入ったんだよ。」
自慢じゃないが戸締まりを忘れるなんて間抜けな失態は一度たりともない。
「管理人のお婆さんに、トラ君のお友達ですって言ったら普通に鍵貸してくれたよ。」
「ま、多少の賄賂は渡したけどな。」
「うむ。さいんをねだられたのでな。マネージャーに無闇に書くなと止められているが、この場合致し方無かろう。」
(あんのミーハーババア……!)
こいつらに怒ったところで何の意味も無いことはよく知っている。
なにせ長い付き合いだ。
何で今日オレん家に押し掛けてきたのかも、考えるまでも無かった。
「今日さ、たまたま皆の休みが重なったんだ!
マスターちゃんの誕生日に奇跡的じゃない??
トラ君には悪いかなー、とも思ったんだけど…どうしても皆でお祝いしたくて。」
「さぷらいずぱーていーというやつだ。」
「……オレまでサプライズさせる必要がどこにあんだよ?」
「うーん、西園寺君に言ったら反対されるかなと思って。」
どうせオレが反対したところで聞きゃしないくせに。
重い溜め息が溢れた。
「ごめん…、やっぱり迷惑だった?
ケーキも買ってあるみたいだし、二人きりの記念日を邪魔しちゃう形になるもんね…。」
海堂が申し訳なさそうに俺を見る。
迷惑じゃないと言えば嘘になるが、そんなに不快でも無い自分がいた。
何だかんだ言ったって、こいつらとつるむのは嫌いじゃねえんだ。
「ここまで用意しといて今更だろ。…たぶん、あいつも喜ぶよ。」
「西園寺……、お前本当に丸くなったな…。」
「昔悪かった人って、大人になると凄く優しくなるって言うもんね。」
「トラ君おっとな〜!」
「トラさん大人です。」
「あの頃あんなにも尖っていたお前が…。愛の力なのだな…!」
「お前ら…、馬鹿にしてんのか?」
相変わらず自由なこいつらに、学生時代を思い出した。
あいつと出逢ってから、今日は何回目の誕生日だっただろうか。
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